トヨタ広告費3割カット、民放各局に衝撃波 | 永田町異聞

トヨタ広告費3割カット、民放各局に衝撃波

番組制作を下請け、孫受け会社に“丸投げ”し、優雅にわが世の春を謳歌してきた民放各社が、急激な景気悪化による広告収入の減少にあえいでいる。


米住宅バブルの崩壊を震源とする世界景気の動揺が、企業の広告カットとなってメディアの営業を直撃したからだ。


あのトヨタでさえ、6月までの四半期決算における業績急降下に、たまらずマスメディア向け広告・宣伝費を今期、3割も削減する方針を決めた。


収入の90%をCMに頼るテレビ業界では、すでにテレビ朝日、テレビ東京など、役員報酬のカットを実施する会社が相次いでいるが、日本経済を牽引するトヨタの30%広告削減という決断は、さらなる衝撃波となって広告、メディア業界に追い討ちをかけるだろう。


東京、名古屋、大阪の民放各社、とくに東京キー局は労せず儲ける仕組みをつくってきた。例えばA社が年に3000億円の売上があるとして、その内訳は、大雑把に言って広告収入2760億円、事業収入・番組販売収入240億円。


この3000億円のなかから、電通や博報堂など広告代理店に支払う手数料が15%ていど、つまり450億円ほど。制作費は35%にあたる1050億円前後だが、番組の大半を企画から練り上げてつくっている下請け、孫受けの制作会社にそのうち1000億円くらいが支払われているはずだ。


ということは残り50%の1500億円がテレビ局の取り分となる。ここから人件費や諸経費をまかなうわけだが、制作を“丸投げ”して安く上げるため、ふつうにやればどんな経営者でも利益を出せる。39歳で年収1500万円近いといわれる在京キー局社員への厚遇ぶりもうなずけるわけだ。


しかし、いかに高い利益率を誇っても、肝心のCM収入が今後も大幅に減り続けるようなことがあれば200~300億円かかる人件費をまかなうことさえ難しい。広告収入の減少を補うための新たな事業を考えついたとしても、この経済情勢下でうまくいくかどうか甚だ疑問だ。経営基盤が脆弱な地方局の経営はよけい苦しいだろう。


民放の危機は新聞社の危機でもある。新聞は2000年以降、広告収入が下降を続け、IT時代への対応に苦心惨憺しているが、経営陣の心のスミに「当分は、テレビで食える」という甘い見通しがないわけでもなかった。


新聞社は郵政省(現・総務省)記者クラブにベテラン記者を配置、60年代から競って新テレビ局開局の認可をとり、自社系列化してきた。その結果、現在の地上波127局のうち3割の局の筆頭株主を新聞社が占めているのである。


中国の安い労働力で生産し、消費大国アメリカに売るという世界経済のメカニズムが転換期を迎え、日本企業が新たな方向を模索し始めた今、マスメディアのビジネスモデルも否応なしに変革を迫られる。


新規参入を阻む総務省の「放送権許認可制」に守られ、誰が社長になってもやっていけるという“テレビメディア天国”がいつまでも続くとは思えない。他の業界は厳しい競争にさらされているのだ。


独自性のある番組を企画する努力を放棄し、タレントの人気に頼る安易なバラエティー番組を各局共通の下請け制作会社に委託してつくらせてきた結果、生涯賃金が6億円近いといわれる社員をかかえながら、どこのキー局にも「ただならぬ発想」を持つ人材が育っていないのではないか。だとすれば、広告収入減少よりも深刻な問題である。


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