ゼネコンと裏社会、シャープ工場建設でのぞかせた日本の一断面 | 永田町異聞

ゼネコンと裏社会、シャープ工場建設でのぞかせた日本の一断面

元公安調査官、菅沼光弘氏は2006年10月19日、東京・外国特派員協会で「日本の裏社会」について講演し、ヤクザがいかに日本の経済社会と結びついているかを明らかにした。

「トヨタの超高層ビルや中部国際空港の建設を、何のトラブルもなく進められたのはバックに弘道会というヤクザ組織の協力があったからだ。しかし、トヨタとヤクザ組織との関係を示す証拠はいくら調べても出てこない。それだけ実に巧妙にやっている」

名古屋を地盤とする弘道会会長で山口組若頭、髙山清司氏から菅沼氏自身が聞いたことだという。警察は当然のことながらヤクザを犯罪組織とみなすが、公安調査庁は政治団体としてアプローチしているから、敵対せずに話ができるらしい。

もともと、建設業とヤクザの縁は根深い。その一端を示すニュースが昨日の新聞に載った。大阪・堺市に世界最大級のシャープ液晶パネル工場が昨年12月から建設されている。大阪府が誘致し、150億円の補助金を出して進められるプロジェクトで、元請のゼネコンは清水建設である。

この工事に参入している大阪市内の土木会社が過去に山口組系組長とゴルフなどの交友をしていた事実を大阪府は一昨年、府警からの連絡でつかんだ。このため清水建設などのゼネコン23社に対し、この土木会社を下請けにしたら指名除外になると通知していた。

ところが、民間工事とはいえ多額の補助金を拠出するシャープ工場のプロジェクトに、この土木会社が参入していたため、大阪府はまず事業主のシャープに連絡した。シャープからの強い働きかけで、清水建設はこの会社に契約解除を通知した。清水建設は「誤解を招いて迷惑をかけるわけにはいかないので」と、説明しているというが、本質的な問題はこの業者を排除しただけでは解決しない。あくまで氷山の一角に過ぎない。

例えば、空港建設工事のような巨大プロジェクトでは、表社会と裏社会の業者が入り乱れて工事に参入し、トラブルが起きやすい。関西空港の場合、一期工事は、山口組若頭・宅見勝組長が調整役として君臨していたが、宅見組長射殺後の二期工事は、仕切り役不在のため難航をきわめたという。

かつてその宅見組長や、イトマン元常務・伊藤寿永光氏、自民党清和会などの顧問弁護士をつとめた元特捜検事、田中森一氏は建築業界とヤクザの関係について著書「反転」のなかで、次のように書いている。

大きな建設工事では、町のチンピラのゆすりたかりから始まり、工事の騒音被害を訴える地元住民の反対にいたるまで、必ず何らかの妨害が入る。その妨害を防ぐため、建設会社は「近隣対策費」と称して工事請負額の3%を地元の有力な組織に渡す。(中略)組が了解済みとなれば、アウトローの妨害がいっさいないということだ。

名古屋駅前プロジェクトの例を持ち出した菅沼氏の話とピッタリ符合する。

ヤクザは1991年に制定された暴力団対策法により賭博や麻薬など旧来の資金源を絶たれ、産業廃棄物処理事業やサラ金への融資、ベンチャー企業への投資など新たな経済活動を始めた。一般企業の中に紛れ込んだヤクザの実態はしだいに見えにくくなっている。

そういう時代でも、昔ながらに続いているのが大企業と裏組織、そして一部政治家との切っても切れぬ腐れ縁だ。これも日本社会の一断面なのである。