(SIDE 蓮)
ドラマ『堕天使』の最終回はそれまでのダイジェストに加え…
キョーコがエヴァとの二役演じて…ANGELの過去にも遡る拡大版。
俺は…その最後のターゲットとされるEDENのリーダー…
L(エル)とその双子の弟ミハイルの2役を演じる。
俺は彼女とのこの演技対決を…すごく楽しみにしていた。
純粋に…彼女との共演は面白い。
本気で演じあえる数少ない本物の役者だから…その緊張感はとても心地がいい。
だけどね、それだけじゃない…今回は…この勝負は…負けられない。
そう…昨日の夜…俺は彼女とある賭けをしたんだ。
それは…
堕天使 (最終回)
[プロローグ]
古より繰り返されてきた争い…それはより強い力を持ったものが世界を制す…。
抑えつけられた弱者が集結し、その力に反旗を翻したとしても…
いつしかまた同じような過ちを犯す…。歴史は常に繰り返され…
勝者の言葉で飾り立てられたそれには…どれだけの真実があるんだろう。
そう…人類がこの地に降り立ってしまったこと自体が過ちだったのかもしれない…。
今もなお…混沌としたこの世界から…戦争がなくなることはない。
秘密結社Gaiaは…国同士の紛争の第一線で戦ってきた…
特殊部隊のメンバーが集結して作られた組織だった。
その彼らが…戦いの中で見たものは…
両親を亡くし泣き叫ぶ子供…そんな子供でさえ生きていく為に人を欺き…強奪…略奪を繰り返し、生きていく為に平気で人を殺める…。
その世界は…人を人とも思わない弱肉強食の…まさに地獄だった。
人としての…大切な何かを忘れてしまう…壊れていくことを畏れた彼らは…
そんな世界を変えたくて…自らの存在を世の中から消し去った。
Gaia 母なる女神…すべてを慈しみ生命を育む…。
そんな慈愛の精神から生まれた組織…Gaiaもまた…例外ではなかった。
名前を持たない彼らは…お互いをコードネームで呼び合い…
その崇高な目的を果たす為…秘密裏に活動し…国同士の紛争を未然に防ぐことを使命としてやってきた。
そうして…不幸の連鎖を止めるべく暗躍する一方で…
親を戦争で亡くした子や、貧しさゆえにストリートチルドレンとなった
子供たちを集め…世界を変える為の工作員として育て上げることに力を注いだ。
ノアは…そんなGaiaで活動するエヴァの娘として産声を上げた。
そう…後のANGELである。
彼女の母であるエヴァは…自身も優秀な工作員でもあったが…
工作員を養成する最高責任者を担うGaiaの主要メンバーの一人だった。
エヴァに育てられた工作員の数は相当数に上り…彼らにとって彼女は
まさしくGaia…幼くして親を亡くしたり…自分のルーツさえ知らない彼らにとって惜しみない愛情を注いでくれたエヴァは…かけがえのない存在だった。
そんなエヴァが…組織を裏切り忽然とその姿を消した。
幼い…当時3歳になったばかりの娘を連れて…。
残された彼らは…何も言わず姿を消してしまった彼女を…心の中にしまった。
理由もなくそんなことをする人間じゃないことは誰もが知っていた。
だけど…たった一人の自分の娘だけを連れて姿を消した彼女に・・・
置いて行かれたことを…恨むことでしか耐えられなかった者もいた。
彼らに共通していえたのは…寂しくて恋しくて…
彼女を忘れることができなかったという悲しい真実だった。
********
前回のミッションで捉えたはずの五十嵐は…ANGELが去った後にやってきた
警察の手を逃れ…その姿を消した。
ホテルを騒然とさせた彼のその逃亡劇も…事件そのものが闇に葬られ、
明るみに出ることはなかった。
それから数週間が経ち…彼女の元へ1件の依頼が舞い込んできた。
それは…現在日本で爆発的な成長を遂げている情報産業の企業で
インターネットメディア事業を営むA-MEBAという会社の調査依頼だった。
Gaiaに寄せられた情報によると…表向きは一般企業だが…
そこがEDENの本部で、活動の為の資金源となっているらしい。
つまりは…EDENへの潜入捜査…それが事実ならば、かなり危険を伴う仕事だが…
正直この手の情報が正しかった試しがなかった。
EDENのリーダーだとされている男…Lは…その姿を晒さないことで有名だった。
変装に長けている彼の素顔を知る者は…組織の人間でさえいないと言われ、一説によれば…もの凄いイケメンで…老若男女問わず、彼に見つめられると…一瞬で彼の虜となって…その口を頑なに閉ざしてしまうんだとも云われていた。
だけど…そのLに復讐することこそが…私の目的。
私は彼を探し出す為だけにこの5年を費やしてきたのだから。
そう…あれは…5年前。
15になった私が…偽名で通っていた学校はこの日本にあった。
学校から帰ってくると…その日は珍しく母のところに来客があった。
私は気配を消すと…いつものように裏口からそっと家へと入った。
私達は親子二人で暮らしていることさえ周囲には悟らせないように過ごしてきた。
母のところへ訪れたその来客を私は秘密の部屋から覗き見た。
その部屋は…隠し扉の中にあって…もしもの場合の脱出経路にも通じていた。
私達親子には…戸籍がなかった。世間には存在しない存在…物心ついた時から…いろんな国を転々として…不法に入手したいくつもパスポートを使っていろんな人間になりすまして生きてきた。
一つの場所に長居することはなく…私達は何かに追われているのだと感じながら生活してきた。
どうして…そんな生活をしなきゃいけないのかと…幼い頃母とケンカをした事があった。
それまで…涙を流す姿なんてみせたことのなかった母が…私を抱きしめて泣きながら謝った。
結局理由は教えてもらえなかったが…母のその悲しそうなその表情に・・・私がそのことを訪ねることは二度となかった。
母は…私に身を守る術を教えてくれた。
それは…いつか…母を失う日が来ることを予感させて…私はその日が来ることを畏れた。
今まで…母の過去を知る人間がここを訪ねたことはなかった。
だけど…その男を迎え入れた時の母の顔は…懐かしさに溢れていた。
突然やってきたその若い男は…母をみるなり…その顔を崩して嬉しそうに母を抱きしめた。
母もまた…優しく彼を受け止める。
その様子に何を話しているのか…気になった私は…部屋に仕掛けてある盗聴器からその会話を盗み聞いた。
「よくここがわかったわね…L(エル)…貴方の活躍は私の耳にも入ってるわ。」
「エヴァ…」
「ごめんなさいね…あなたたちを置いて突然姿を消して…だけど…
事情を説明する余裕がなかったのよ…許して…」
「わかってます…それは…だからこそ、EDENを作ったんですから。」
(…EDEN?母さんたちは何の話をしてるの…?)
「そうね…彼を止めないと…この世界は…」
「エヴァ…俺たちの組織に来ませんか?」
「…あなたたちの組織に?」
「ずっと…探してたんです。俺たちの…G……を忘れ…ことがで…くて…」
(あれ…おかしいな…?機械の故障かしら??)
そういって機械を軽く叩くと母の声が聞こえてきた。
「ありがとう、でも、私が生きてるってことを彼に知られたくないのよ。」
(あ…直ったみたい…。)
だけど…母の言った言葉が…私の心をざわつかせた。
生きてることを知られたくない…って…彼って…誰のことなんだろう?
「彼はまた…あの研究を再開させました。」
「…なんですって?」
母さんの声が険しくなった。
「だから…あなたが必要なんです。」
そう言った男の声が…口調が冷ややかなものへと変わっていく。
「私が…?どうして…?」
「あなたは…持っているはずだ。あの日…研究所から盗み出したデータを。」
(…?どういうこと??…なんか様子がおかしいわ。)
「?! …あのデータはすぐに消去したわ。あんな危険なもの…」
「嘘だ!俺はね…知ってるんですよ?あなたがいろんな国を転々として…
何をしてきたか…出来上がったんでしょう?ワクチンが」
「な!…そんなものないわ!あったとしてもあなたには渡さないわ。
あなたは…~~~~~~~~~……」
(あ!まただ。会話が聞こえない…)
そう思って母の口元を読もうとした時だった。
その男の持っていたサイレント銃が煙を上げたのは…
(?!)
スローモーションのように後ろに飛ばされていく母の姿…
その目は光を失い…その眉間には銃弾の痕が…みえた。
(うそ…だ。)
ガターンッッと大きな音を立てて倒れた母の身体はピクリとも動かなかった。
即死 それは確認せずともわかった。
とうとう…この日が来てしまったんだ。
私はその男の顔を忘れないように目に焼き付けた。
そして…その男の手下がやってきて…部屋を荒らして何かを探し始めた。
さっき言ってた…データを探してるんだ。
きっと…この者たちに母の遺体は跡形もなく消し去られるのだろう…。
そう…いつかこんな日が来ると…母は私に告げていた。
「ノア…もし、母さんの身に何か起きたら…あなたはそこからすぐに離れるのよ!
振り向かずに走って…そして…あなたは生きるの。
守って欲しいの…あなたが暮らす幸せな世界を。」
私は…走った。母が以前私に言ったその言葉を思い出しながら…
地下へと続く隠し通路を…泣きながら、振り返らずにひたすら走って…
非常用に借りてあった家の一つへと身を隠した私は…あの男の顔を…
母としていたその会話を思い出していた。
EDENという組織のL(エル)という名の男…
そして…母さんが盗み出したデータとそのワクチン…
そのデータの場所には…思い当るところがあった。
いつも…肌身離さず付けておくように言われてたこのペンダント…。
夜になるとそっと…それを手にとってみつめる母の姿…を何度かみかけたことがある。
きっとこの中にチップが隠されてる…。
そして、母が私の存在を隠していたのは…きっと…その秘密と私自身を守る為…。
私が暮らしていた幸せな世界…そこには…いつも母さんがいたのに…
母さんがいなきゃ…一人ぼっちじゃ…幸せになんてなれない…。
「母さんっっ」
私はペンダントを抱きしめ…暗い部屋の中…一人で泣いた。
泣いて泣いて…涙が枯れ尽くすほど泣いて…朝日が昇ってきた時に・・・誓ったんだ。
『アイツに復讐する!』
そして…私は母さんがつけてくれたノアという名前を捨て…
EDENと対立する秘密結社GaiaにANGELとして…その身を投じた。
Gaiaに入ったのは…母さんを殺したあの男を探し出す為。
…母さんが何と闘っていたのか…
どうしてこんな生活を強いられなければならなかったのか…私は知りたかったから。
そして…あれから5年…
今回の情報もその出所は不確かだけど…可能性があるのなら…
それを虱潰しに確認していくしかない。
私は…あの男に復讐を果たす為だけに生きてきたんだから。
そして…社長の第3秘書として…
会社へ潜入することになった私がそこで出逢ったのは…