出発の準備と言っても、たいした荷物は無い。
……と思ったら、大間違いだった。
なぜなら、サラたちは大事な旅の荷物を、ほとんど砂漠に捨ててきてしまったから。

今頃あのかわいそうなラクタも、寝袋も、乾いた砂に埋もれているだろうか。
王宮を出てからというもの、何度か横目に眺めて通り過ぎてきた、あの小さな集落たちのように。

井戸の枯渇で家を捨てざるを得なかった砂漠の民は、現在王宮の近くで避難生活を余儀なくされている。
彼らの待遇は、人間として誇りを保てる最低レベルに見えた。
まさに、スラム化の一歩手前。
王宮は暴動を恐れて、監視の目を厳しくしている。

旅を、急がなければ。
どんなにこの岩山の砦が、居心地よくても。

大切なひとと、離れることになっても。

 * * *

盗賊の家族と認められたことで、必要なものはすべて、無償でゆずってもらえることになったサラたちは、広い倉庫の中で、乱立した背の高い棚の間をうろうろしつつ、おのおの必要なアイテムを選んでいく。
例のおばちゃん盗賊が、トリウムまでの道のりの説明とともに、周囲から浮かないような格好をしなきゃねと、かいがいしく商人風の衣装をアドバイスしてくれた。
いずれまた砂漠に戻ることになるだろうし、そのときは砦に寄っておばちゃんになにかお礼を渡そう。

今度の旅の設定は、トリウムへ仕入れに行ったまま帰ってこない商人の父を探す、けなげな3人兄妹。
カリムは兄、リコは姉。
サラは、一番下の息子となる。
頭が軽くなってスッキリしたサラは、またもやコスプレ気分で、少年の衣装を嬉々として選んでいた。

オアシスは温暖湿潤な気候なので、砂漠の衣装よりは薄着になる。
ぶかっと布をたるませて、その上からマントをかぶるスタイルだから、体の線は目立たないのだが。

「ねぇ、やっぱサラシとか要るかなぁ?」

サラは、後方の棚を漁っているリコに向かって、振り向きざまに質問する。
しかし、そこに居たのは、リコではなくカリムだった。
カリムは、サラの胸をチラリと見たあと、フッと皮肉めいた笑みを浮かべ、無言で立ち去った。

「なんか……むかつく」

2年後を見てろよ!

その日から、サラの毎日の腕立て伏せノルマは、100回から200回に増やされた。

「サラ様、ステキです……」

その後毎日朝晩、100回ずつの腕立て伏せを含む、恐ろしいボリュームのトレーニングをこなすサラを見つめて、ますます傾倒していくリコなのであった。

 * * *

最も時間がかかったのは、サラの武器選びだ。
少年になった自分に、ぴったりの剣が欲しい。

先日の砂漠の旅で、サンドワーム出現事件の後、サラは一度カリムの剣を触らせてもらった。
剣はとてつもない重量で、サラが両手を使って必死に踏ん張っても、落とさないようにキープするのが限界だった。

「この剣は、俺と契約した聖剣だから、俺にしか扱えないぞ?」

と言っていたが、サラにはその意味がピンと来なかった。
カリムはやれやれと肩をすくめて、剣について解説してくれた。

剣というものは、宝石や杖と同様に、精霊に好まれやすい。
精霊がついた剣は「聖剣」と呼ばれ、魔術的な攻撃力を付加された強力な武器となる。
あのサンドワームがたった一撃で倒れたのも、聖剣の力を借りたおかげだった。

そして、聖剣は選ぶものではなく、選ばれるもの。
剣と人間には相性があり、剣が持ち主を選ぶこともよくあるらしい。
剣に選ばれたなら、見た目の大きさや重さの問題は関係なく、その剣が最高の使い心地になるそうだ。

その説明を聞かされたとき、ひらめいた1つのイメージ。
大剣を背中に担ぎ、片手で振り回す流れの剣士、サラ。

うーん、いいねぇ。

武器のしまってある箱のなかで、一番巨大な箱の蓋を開け、サラはやる気マンマンで腕まくりをした。
大きくて古い、さもいわくのありそうな装飾の剣が、どっさり入っている。
重たいのもかまわず、1本1本両手で持ち上げては、振るってみた。

「私の運命の剣は……この剣では、ございませんっ!」

いちいち、決め台詞を言いながら、箱から取り出した剣を手にとっては、足元に放り投げていく。

ああ、なんだか楽しい。
どんな剣が、私を選んでくれるんだろう?
ウキウキしながら、上機嫌で剣をチェックしていったサラだが。
箱の剣はどんどん減り、両腕が疲労でパンパンになったころ、箱の中はついに空っぽになった。

無い!
1本も無い!
こんなにたくさんの中から、1本も見つからないって、どーゆーこと!

ふくれっつらで、取り出した剣をまたガチャンガチャンと乱暴に箱の中へ戻していく。
そして、ふと気が付いた。
剣に選ばれなかったのは、単に自分の実力不足のせいではないか?

カリムの剣さばき、すごかったなあ。
私はまだ、その域には全然達していない。
未熟者には、聖剣を持つ資格がないのかも。
魔力も無いし、この先もし怪物や敵が現れたら、いいとこなしか。

守られる側のお姫さまポジションということはすっかり失念し、サラはしょんぼりと肩を落とした。

「くっ……おまえやっぱり、面白い女だな」

肩を震わせて笑いながら現れたのは、サラの大切なひと。

 * * *

朝の、あの、あれから、まだほんの数時間。
サラは、内心ときめきながらも、再会を喜ぶそぶりもみせず、ジュートに悪態をついた。

「私の運命の剣があると思って期待してたのに、結局無いんだもん!こんなにたくさんあるのに!」

サラが唇を尖らせると、ジュートは「おまえ可愛いな」といって、サラのタコ唇にチュッとキスをした。

ギャッ!
また不意打ちですかっ!

真っ赤になって後ずさるサラを追って、ジュートは倉庫の壁際に追い詰める。

「そんな可愛いこと言うと、手放したくなくなるな」
「やっ、だめ、こんなとこで」

すぐ近くに、リコもカリムもいるのに!
ジュートはくすくすと笑いながら、至近距離で言った。

「可愛いけど、お前、ときどきバカだな」

ここ見ろよ、といって、ジュートは外して壁に立てかけられた、箱の蓋を指した。


『リサイクル。つかうな』


どうやら、サラが漁っていた箱は、使い古した剣のリサイクル用ゴミ箱だったらしい。


【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
ようやくサラちゃん視点。旅は準備中が一番楽しいと思うのは、ドラクエ好きに共通する認識ではないかと。宝箱全部漁って、一番強い武器防具装備で出発。これ最高。「ございませんっ」の決め台詞は、分かってると思うけどガキの使いオマージュです。
次回は、サラちゃん運命の剣との出会い。そして最後のキッス&バイバイバイ♪(byLR)……かな?


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