『琥珀枕』 森福都 | 手当たり次第の読書日記

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新旧は全くお構いなく、読んだ本・好きな本について書いていきます。ジャンルはミステリに相当偏りつつ、児童文学やマンガ、司馬遼太郎なども混ざるでしょう。
新選組と北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌のファンブログでは断じてありません(笑)。

森福 都
琥珀枕
同じ作者の『十八面の骰子』がめっぽう面白かったので、中身も確かめずに買いました。
古代中国が舞台の時代劇ミステリ、というのはおんなじですが、これはより怪奇・幻想・ファンタジー色が強くなってますね。
東海郡藍陵県の県令の一人息子・趙昭之が、父が屋敷に招いた教師の徐先生(齢数百歳のすっぽんの化身!)と散歩をしている場面から始まります。この師弟は、主人公というより狂言回し。丘の上にのぼって道行く人を眺めながら、先生は予言めいたことを口走ります。たとえば、第1話「太清丹」では、先生が目をとめたのは金に困って家宝の秘薬を売ろうとしている男。持ち込んだ先はとある大金持ちですが、「買い入れたが最後、慎ましく淑やかなことで評判の、自慢の一人娘を失うはめになろうからのう」──そこで場面は転換し、少年と老師はいったん退場。不死の薬を買った男の視点で物語が進み、そして……先生が予言した悲劇が到来する訳です。
この構成がいいんですよ。どういうことが起こるかを最初にちらっと予告して、それから本編スタート、みたいなね。全く白紙の状態で物語に臨むよりも、ちょっと匂わせてあるほうがサスペンスがより高まるというものです。しかも最初に「さては」と予想した通りには、絶対ならないんだよねこれが(笑)。必ずひねりがきかせてあって、やられた!と思うのがまたいいんですよ。
有名な教師がすっぽんの化身だったり、幽鬼にとりつかれた男がいたり、言葉を喋る人面瘡の美女がいたり、いかにも昔々が舞台の不思議な話なんですが、でも、ちゃんとミステリになってもいるんですよね。全然違いますが、『半七捕物帳』みたいな感じかな。時代劇の雰囲気があって、ちょっぴり怖かったり不思議だったりして、ミステリで、しかも、出てくる事件は結構グロなものが多いのに、読後感が爽やかで。
「ネムキ」誌でマンガ化したらどんぴしゃ、という感じの世界です。絵は、かまたきみこ或いは今市子。この手の感じが好きな人だったら、絶対おすすめですよ!