桑田佳祐自身が出演する NTT docomo のCMで既に耳にする機会が多かった曲だが、ホーンの入れ方なんかが、Neil Young の牧歌的な部分を表現してるのかな、と勘ぐったりした。歌詞は「どんな形になっても故郷はそこしかない。だから大切に思い続けるんだ」といったメッセージが濃く表れている。「マーチ」=March(震災が起こった3月)というのは後付けだったか・・・。
Let's try again ~kuwata keisuke ver.~
チャリティソングのメインテーマとして作ったサビの部分にAメロとBメロを足して1曲に仕上げた逸品。イントロから70年代ロック全開で個人的には今回の3曲の中で一番好きな曲。これまた個人的にBメロのサビに行く直前のメロディが良い。後付けのAメロとBメロの歌詞は少し時間が経ったこともあり、冷静に事実を受け止め、明るい未来への糧としよう、という意気を感じる。この曲をテレビで歌う時、白いスーツに白いストラトが「George Harrisonみたいだな」と思ってたら、Concert For Bangladesh のジョージを意識してたのね。
タイトルから想像したのは、John Lennon = "Give Peace A Chance" のような曲調のシンプルなロック・ナンバーだったが、バリトン・サックスのリフが効いた割りとヘビーな1曲に仕上がっている。John Lennon で言えば『Sometime in New York City』に収録されている楽曲のイメージだ。「労働(ワーク)」と「労苦(ろうく)」などの韻の踏み方は相変わらず見事です。しかし、"Imagine all the people living for today" というフレーズを使うだけで、オノ・ヨーコの許可がいるとは・・・。
桑田佳祐に「鎌倉」を歌わせると何故か『夕陽に別れを告げて』のような曲調になるなぁ。何となく『I AM YOUR SINGER』にも似てる。リスニングパーティーのアンケートで、この曲の人気が意外と高かったことに安堵したとラジオで桑田さんが言っていたが、多くのファンがこういう楽曲にこそ安心感を覚えるのは当然だと思う。私自身は「安直な帰結」すぎて曲自体は余り好きになれないのだが、アルバム全体の流れとしては、「ちょっとした休息」としての効果があると感じた。そして「跋扈する」なんて言葉をポップスの歌詞に乗せられるミュージシャンもまた、桑田佳祐以外に有り得ないだろう。
紅白で披露された時、『本当は怖い愛とロマンス』『EARLY IN THE MORNING』と併せて考えると「とてつもないアルバムが発売されるかもしれない」という良い予感がした。エレキ・ギターの弾き語りは、フォーク・ギターをエレキに持ち替えた Bob Dylan のイメージだったが、コーラスで意識したのは Neil Young でしたか。最初に歌入れされた曲であり、「命をありがとネ」が病気発覚前の作詞というのもビックリ。
M15. 狂った女
M16. 悲しみよこんにちは
実は『狂った女』と曲間0秒でつながっている『悲しみよこんにちは』がセットで、本作における私にとってのベスト・トラック。だからここがこのアルバムのハイライトである、と断言したい。
『狂った女』は明らかに Led Zeppelin を意識して作ったのだろう。斎藤誠はこの手のリフを作らせると「ありそうでない」上手いフレーズを持って来るなぁ。これまた Madonna のことを歌っているようで、桑田さんのセルフライナーノーツによれば、「Mad」+「onna」=「狂った女」ということらしい。付け焼き刃的録音と桑田さんが言っているが、このラフさがかえって心地好い。
どっかからか入手したサンプリング音源を挟み、『悲しみよこんにちは』に続くわけだが、この曲の当初のアレンジは「Band In A Box」を使って作られたと聞き、「あ、俺も持ってる!」といたく感激した。結果的にアレンジは全然違うものになったらしいが、このソフトはアレンジのインスピレーションを得るには非常に便利なソフトでオススメ。一番アレンジに苦労した曲だそうだが、そのわりには作り込み過ぎずシンプルでありながら気の利いたものになっている。サポート・ミュージシャンたちの技量には敬服する。
M17. 月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)
ディレイがかかったピアノのイントロが印象的な三井住友フィナンシャルグループのCMソング。歌入れは退院後。「ミスター・ムーンライト」「ビルの屋上の舞台(ステージ)」などの歌詞があり、The Beatles へのリスペクトと今は亡きお姉さんとの思い出を重ね合わせて「諸行無常」を表したかったのだろう。「巨大(おおき)な陽」とは勿論ビートルズのことを指しているわけだが、Roof Top Session を知らない若い世代のリスナーにもこの情感が伝わるのは、ビートルズがそうであるように、桑田佳祐の音楽もまた世代を超えて語り継がれるだけの物を持っていることの雄弁なる証しに他ならない。
2/26放送の「やさしい夜遊び」誕生日スペシャルで、このアルバムを曲順通り全曲かけたが、それには意味があると思った。このアルバムは曲の並び順ですら作品の一部として完璧に配置されていると感じていたからだ。1曲目からラストまで、アルバム全体のその起伏すら本作品の醍醐味となっている。逆に言えばどの曲をスキップして聴いても、このアルバムの良さを理解出来ていないことになる。「日本語」のタイトルに「カタカナ」のルビがふられている楽曲で始まり、最後にまた同様のタイトルが付いた楽曲で終わる。このことだけを考えても、この曲順は完璧な「パッケージ」なのだ。アルバム作品として提供する以上、個別に楽曲がダウンロードで入手できるこの時代には、こういったこだわりは大事であり、これを意識出来る桑田佳祐は間違いなく "MUSICMAN of Musicmen"である。