未完:恋愛小説@19歳 「瞬間」シリーズ〜抱きしめられた瞬間〜 | 「蒼い月の本棚」~小説とハムスター(ハムちゃん日記はお休み中)~

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趣味で小説を書いています。絵を描いたり写真を撮ったり、工作をしたり書道をしたり、趣味たくさんです。古典で人生変わりました。戦国時代&お城好き。百人一首とにかく好き。2016年、夢叶って小説家デビューできました。のんびり更新ですが、どうぞよろしくお願いします。














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…………………………19歳 「瞬間」シリーズ~抱きしめられた瞬間~
















「タクシー来ないね。」




「…この雪じゃ、待ってても通らねーかもな。電話してみるよ。」







私は、ガードレールの上に積もった雪を両手ですくい、ゆるく握って玉にした。




電話中の、少しだけ丸まった背中めがけてそれを投げる。


ダウンジャケットのへこんだ縫い目に、ポスンと当たってパッと砕けた。






もう一度、積もった雪に手を伸ばす。



今度は、あの日繋いだ手の温もりを、拭うように雪を丸めた。





「こらっ!雪ぶつけんな!
てか、タクシーダメだ。みんな出払ってるって。諦めて駅まで歩こう。」






雪玉を乗せた右手は、凍ってしまうほど冷たいのに、記憶の隅には今もなお、温かく響いて離れない声。




…『俺が出口まで引っ張ってやるから。』…



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この気持ちの出口は、一体どこにあるんだろう。


お化け屋敷みたいに、リタイアできるドアがあったらいいのに。








「おーい、何してるんだ?おいてくぞー?」




想いを振り払うように、ガードレールの雪を全部払い落とした。







手が冷たい。



記憶も温もりも、全部このまま凍ってしまえばいい。




前が見えなくなるほど降り続くの雪の中を、全力で走った。







「あ、こら待てっ!走るとあぶねーぞ。止まれって!おいっ!これでもくらえっ!」





後ろから飛んできた雪玉が、ポスッと頭に当たってふわっと砕けた。






私は、雪の上屈みこむ。




「痛い…。」




「悪ぃ、大丈夫か?」





髪にかかった雪が、私の息に触れて小さな雫になる。





「痛いよ…すごく…痛い…。」





胸が痛い。


雪玉を投げても、全力で走っても消えない痛み。





「おい…ほんとにどうした?どこが痛い?頭?それとも、腹か?」






「大丈夫だよ、ごめ…ん。」





顔をあげ、笑顔を作って立ち上がった拍子に、我慢していた涙がこぼれて落ちた。






「お…い…なんだよ?なんで今更泣いてるんだよ。あんとき、もう大丈夫だって言ったじゃねーか。

…てか、一人で泣くな、泣くなら俺んとこで泣けよ!」






…っ‼︎





首の後ろに強く腕が回され、あっという間に引き寄せられた胸の中。



初めてこんなに強く、男の人に抱きしめられた。




「雄…大…?」




「…もう忘れろ。俺がずっとこうしててやるから。」














自分を抱きしめてくれる人が、この世にいると知った19歳。







その日は、久しぶりに雪が降ったクリスマス。



数日前、けいちゃんから、家でクリスマス会をやろうと誘われていた。



クリスマスもバイトなので断ると、終わった後でもいいというので断りきれず。



朝からずっと悩みの種。





「クリスマスだってのに、なにため息ついてんだよ?」




そこに一艘の助け舟。




「雄大…今日一緒に行ってもらいたいところがあるんだけど。」



食べようとして開けた飴を、雄大の手に乗せる。

買収のつもり。



「え?いいけど。真田が俺を誘うなんて珍しいな。もちろん行くよ。」




「クリスマスなのに、いいの?」



「クリスマスだから、いいんだよ。」



「は?」



雄大は、手の上に置かれた飴を口に放り込んで、いつもの場所に座った。



「てか、俺、今日スーツとか着てきてないぜ?」




「スーツ?」



雄大は、休憩室の窓を開けて外に手を出した。



「なんだよ、ホワイトクリスマスかー。あー、早くバイト終わらそーぜ!」










雄大とは、相変わらずのバイト仲間で、4月からは大学も同じ。


と言っても、学部が違うので、校舎は別。
学内では、顔を合わせることはほとんどなかった。
















「…なんだよ。行きたいとこって、ここかよ。」





「うん…ここ。」




3月の終わりに引っ越しの連絡をもらってから、初めて来たけいちゃんの家。



ずっと一人で来る勇気がなかった。

















高校を卒業して、大学の準備を始めていた3月の終わり、けいちゃんからメールが届く。





『叶哉と婚約し、4月から一緒に住むことになりました。場所は…






…え?婚約って?


…突然すぎて感情が追いつかない。






そのとき、手に持った携帯が、音を立ててブルブル震えた。


画面を見ると、雄大からの着信。




「今、叶哉と会ってきた。あいつ、チームの独身寮に入ることに決まってたのに、婚約したから別の場所に住むことになったって言うから。」




「…私も、さっきけいちゃんから連絡が来て…。」





言葉に詰まる。


連絡が来て…悲しかったって言おうとした自分に驚き、ブレーキをかけた。



違う、これは喜ぶべき報告だよ。








「…真田?…大丈夫か?」




「な、なにが?」




「とりあえず駅まで出てこいよ。昼メシおごるから。話はそのときに。」



叶哉は、雄大になんて言ったのだろうか。

私は、すぐに着替えて駅に向かった。













「こっち。」



雄大を見つけて、向かいの席に座る。



「なに食べる?俺は、このハンバーグの大盛りにするけど。」




私は、雄大から差し出されたメニューを見ずに応えた。




「…カフェオレでいい。」




「メシは?」



「いらない。」




わかったと頷いた雄大が、店員を呼び止める。




「すいません、カフェオレ2つ。」




「あれ?雄大 ご飯は?ハンバーグ食べるって…。」



「ああ、さっき食ったの忘れてた。今は腹一杯。それより、叶哉のことだけど…。」




雄大は、声のトーンを落として、叶哉の様子を話し始めた。





「…卒業式の時、俺にさ、あらたまって礼を言ってきたんだよ。遊園地のアレ。あの試合で叶哉はスカウトされて、チームに所属できたって。

これから表舞台で活躍できるように、練習頑張るからって、寮の住所を教えてくれてさ。


彼女は?って聞いたら、大丈夫だって言ってたから安心してたんだけど…いきなり婚約って…友達の、俺にひとこ…






店員が来て、押し黙る雄大。


カチャンとコーヒーが置かれて、私はミルクを、雄大は砂糖を手に取った。



サーッと砂糖が落ちる音。


ミルクを垂らせば、グルグルと渦を巻く。






「…俺に、一言の相談も無しだぜ?ありえねーよ…って、怒鳴ってきた。」




「ど、怒鳴ったの?」



「ああ、怒鳴ったし、頭も引っ叩いてきた。」




「引っ叩いた?」



「引っ叩いたのは、真田の分だけど。」




「は?」




雄大は、水をクッと飲み干した。



「なんでそんな急展開になったのかは、あいつ、最後まで言わなかったよ。」



「…そっか。」




私は、カップに口をつけた。

熱くて飲めなくて、もう一度お皿にカップを戻す。





「なあ真田…もう、ここまできたら叶哉のことは諦めろ。」




雄大の言葉に驚いて、触れたままのカップがカチャンと音を立てた。




「叶哉のことが好きなんだろ?」





「…バレてたか。」




叶哉を好きだとはっきり言われて、胸がキュッとなる。




「うん、でも大丈夫。諦める。心配かけてごめん。ありがとう。」









私は、この日、叶哉を諦めた。




…はずだったのに。




















…………








※19歳のお話は、時系列を前後させて書いてあります。





①最初のシーンは、叶哉とけいちゃんの家を出て、雄大と一緒に帰っているシーンです。


雄大に抱きしめられたところまで。


本来ならここが一番最後にくる場面です。






②次が、クリスマスのバイト先でのシーン。



③その次が、雄大と一緒にけいちゃんの家に着いたシーン。




④最後は、高3の卒業式後にけいちゃんから婚約の連絡を受け、雄大と会って話したシーン。




つまり、時系列は


4.2.3.1となり、最初と最後の順番を組み替えてあります。





雄大に叶哉のことが好きだとバレたのは、大学入学前の3月です。




分かりづらい書き方ですいません。


よろしくお願いします。