未完:恋愛小説@18歳 「瞬間」シリーズ〜秘密を作った瞬間〜 | 「蒼い月の本棚」~小説とハムスター(ハムちゃん日記はお休み中)~

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趣味で小説を書いています。絵を描いたり写真を撮ったり、工作をしたり書道をしたり、趣味たくさんです。古典で人生変わりました。戦国時代&お城好き。百人一首とにかく好き。2016年、夢叶って小説家デビューできました。のんびり更新ですが、どうぞよろしくお願いします。











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………………………18歳「瞬間」シリーズ~秘密を作った瞬間~













叶哉とけいちゃんはヨリを戻した。




今度は毎日メールが来て、休みの日は部活よりけいちゃんを優先して会ってくれるって嬉しそう。



それにしてもあの叶哉が、毎日メールとは。


もっと驚くべきことは、部活を休んでデートしてるって話。


あんなにサッカーバカで部活バカだった叶哉が、こうも変わるなんて。







「コンドノニチヨウビハ カナヤトユウエンチニイクノ ハート」




えっ?




いつの間にか後ろにいた雄大が、けいちゃんから届いたメールを読み上げた。





「ちょ、勝手に見ないでよ!」





「ふーん…高3だっつーのに、日曜日に遊園地ですか。

…てか、今度の日曜日、サッカー部のやつらは、大事な試合があるって言ってたぜ?あいつレギュラーなのに、行かねーつもりなのかな。」




大事な試合…レギュラー…行かない…わけないでしょ?


もし、行かないっていうのなら、きっと理由が…




「真田はどうせ、理由があって試合に行かねーんじゃねーかって思ってんだろ?」




…!




「ほら、やっぱり。

あのさ、もしも理由があったとしてもよ?俺らは高3で、将来を決めなきゃいけねー大事な時期よ?

将来を棒にふるような理由って、こっちが聞きてーくらいだよ。」




雄大の言っていることは、充分分かる。


分かるけど…けいちゃんだって、きっと叶哉の将来をちゃんと考えてるはずだ。





「叶哉の気持ちはどうなんだろう…。」




「あいつは、彼女のいいなりじゃね?だって一度振られてるんだし、立場上強く出れねーよ。

いや、でも、それを差し引いたとしても、なんか大変そうだよな、あの彼女。
メールは何度もしなきゃなんねーし、部活だって…




私は、黙って雄大を叩いた。




「いってー、なんだよ?」



「はい、もうおしまい。」




休憩時間もおしまい。

私は、残ったカフェオレを飲み干して立ち上がる。





「…きっと叶哉だって、俺と同じこと思ってるはずだぜ?」




「しつこいなあ、けいちゃんのメールはいつも叶哉が優しくしてくれて幸せだって…。」




私は、空いたカップをゴミ箱に投げ入れた。




「そりゃ、自分のやりたいことを我慢して、全部彼女に時間を使ってれば、彼女は嬉しいでしょうよ。

でも、叶哉はどうなる?叶哉は誰に優しくしてもらえんの?この様子じゃ、彼女は自分のことばっかりみたいだし、叶哉のことなんかちっとも考えてやってねーじゃん。


本当は俺、知ってるんだよ。
日曜日のサッカーの試合、叶哉の将来がかかってる試合ってこと。
顧問と叶哉が話してんの聞いちゃってさ。

大学や実業団、Jリーグのスカウトも見にくる試合で、そこから進路が決まるかもしれないから、頑張ってこいって言われてたぜ、あいつ。


叶哉はずっとサッカーを続けたいって言ってたし、この試合行かせないなんて、彼女としてどうかと思うぜ?」




こんな話、聞けば聞くほど、叶哉が気になってどうしようもない。




「…うるさいよ、雄大。
きっと…けいちゃんはこのことを知らないんだよ。私から連絡してみるから、そんな女じゃないって証明してやる!」





私は、雄大の言ったことをそのままメールした。


しばらく待つと、けいちゃんからの返事が来たことを知らせる音。






「俺にも見せろ。」



「ちょっと待って、私が先だよ。」




雄大に背を向けて、メールを開いた。




『そんなの知ってるけど、私との約束の方が先だったし。叶哉もいいって言ってるし。なっちゃんが気にすることじゃないよ。』






身体からサーッと血の気が引いた。


こんなの、雄大に見せらんない。




「あ、これ、お母さんからのメールだった。けいちゃんから来たら言うか…ら?」




振り向いたらそこに雄大がいた。





「悪りぃ、見ちゃった。


で…真田はどうしたい?」





「どうしたいもないよ…きっと雄大と同じ。」






2人を結びつけたのは私なのに、どうしてこんなに胸がざわつくんだろう。



叶哉が、こんなにけいちゃんのことを大切にしてくれてるんだもん、けいちゃんも叶哉のこと、大切に考えてるんだよね…?


















日曜日。





雄大は、叶哉が出かけた後、家にサッカー道具を取りに行った。



私は遊園地に先回りして、様子を伺うことになっている。







早朝から物陰に隠れて、ようやく2人を発見。






尾行開始。







お化け屋敷に2人が並んだところで、雄大から連絡が入る。




「叶哉を急いで入り口まで連れてこい。早くしないと間に合わない!」



って言っても、どうすんのよ?




もうすぐお化け屋敷に入っちゃうし、今、けいちゃんに知られずに連れ出すなんて、絶対無理だよ。





あー、入っちゃう!


とりあえず、追わなきゃ!




「すいませーん、先に家族がいまーす!」




列を掻き分け、けいちゃんたちのすぐ後ろから中に入ることに成功した。



ああ、歩くタイプのお化け屋敷…私、世界で一番苦手だよ~。




けいちゃんは、トタトタ進んでいく。

お化けが出たってへっちゃらみたいで羨ましい。





しばらく行くと、それぞれがドアを開けて、別々のルートを選んで進む場所に出た。





「叶哉、私こっちに行くね。」




けいちゃんは、①番のドアを開けて中に入った。




けいちゃんが中に進んだのを見て、叶哉は②番のドアを開ける。





…今だ!




私も②番のドアに滑り込んで、叶哉の足を掴んだ。




「うわあああ!」




叶哉がビビってコケた。


なんだ、叶哉も怖がってたんじゃん。




私は、それがおかしくて、必死に声を殺して笑った。





「おい…なんでお前がここにいるんだよ。」




あ、そうだ、遊んでる場合じゃなかった。





「…行くよ。」




「は?どこに?」




えーと、考えてなかった…今、サッカーに行くって言ってもダメだろうし…。




「び、病院…雄大が、怪我した。」




テキトー!

私ってば、テキトー!




「マジか!分かった。景子に連絡してから…。」




「だ、大丈夫、私がさっき連絡したから!」



おー、こんなベタでテキトーな理由を信じたよ、叶哉。



…素直だな。





「じゃ、リタイヤドアから抜けるぞ。」




「あ、うん…。」




叶哉は、ターッと走って行ってしまった。


ウソッ!



ここを一人で歩けとか、拷問だし!





あー、早く行かなきゃいけないのに、怖くて一歩も進めない。


私は、耳を塞いで目をつぶり、その場に座り込んだ。





…!


痛っ!




頭を叩かれ、恐怖に怯えながら顔をあげれば、目の前に叶哉がいた。




「お前、なにしてんだよ、早くしろ。」




言われて立ち上がるも、生まれたての子鹿状態。




「まさか…怖いのか?」




叶哉がクククッと、嫌味たっぷりに笑った。




「…笑うな。叶哉だってさっきビビってコケたじゃん。」



「あー、そうだな、じゃ、先行くよ。」



「あ、あ、ま、待って。」



叶哉がニヤリとしながら振り返る。




「私、お化け屋敷は世界で一番嫌い。叶哉を捕まえるために入っただけで、こんなとこ、本当は死んだって入りたくない。」




私の言葉を聞いて、叶哉は笑うのを止めた。



「そうか、そうだよな。悪かった。俺のために苦手なことさせて。

じゃ、ちょっとの間、目を閉じてろ。俺が出口まで引っ張っていくから。」






…え?




えっ!えっ?えー?





叶哉に手を掴まれて、私はお化け屋敷の中を走った。




手、繋いでる…。




繋いでるー!







リタイヤドアを押し開けると、パアッと眩しい光。





「行くぞ。」




「うん。」





ふわふわした気持ちで、叶哉と走った。













「叶哉!」




タクシーの窓から、雄大が手を振って呼んでいる。






「雄大?」



「いいから、走って!」





今度は私が、止まりそうになった叶哉の手を掴んで引っ張った。




「まだ間に合う?」




「ああ、ギリギリ。」




「雄大、怪我…?」




「いいから乗れってば、早く!」




私は、叶哉をタクシーに押し込んだ。





「しっかりサッカーやってこい!」






「えっ?」



叶哉の驚いた顔。





「大丈夫、あとはちゃんとやっておくから!」




「真田、あとはよろしく。叶哉、行くぞ!」






驚きの表情から一変、叶哉の目の色が変わった。



叶哉…頑張れ。






雄大と叶哉を乗せて、タクシーは走り去った。







頑張れ、叶哉。



けいちゃんのことは、なんとかしておくから、今は自分のことだけ考えて。




私は、叶哉の熱が残る右手をぎゅっと握った。


手を繋いだことだけは、胸の奥にしまって。

















友達に秘密を作った18歳。