未完:恋愛小説@16歳「瞬間」シリーズ〜抱きしめたくなる瞬間〜 | 「蒼い月の本棚」~小説とハムスター(ハムちゃん日記はお休み中)~

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趣味で小説を書いています。絵を描いたり写真を撮ったり、工作をしたり書道をしたり、趣味たくさんです。古典で人生変わりました。戦国時代&お城好き。百人一首とにかく好き。2016年、夢叶って小説家デビューできました。のんびり更新ですが、どうぞよろしくお願いします。















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……………………16歳「瞬間」シリーズ~抱きしめたくなる瞬間~















叶哉とけいちゃんが別れた?



高校は、別々の学校に進学。


けいちゃんとは繋がっていたが、叶哉とはぶっつり切れていた。



日曜日の午後、けいちゃんから、叶哉と別れたと連絡が届く。



『同じ学校に好きな人ができたの。
ていうか、その人と一緒にいるところを叶哉に見られちゃって、その場で別れ話をしたの。』



『いつ?』


『今。』


『今?』



『うん、今。叶哉は、高校の部活帰りだったみたい。』



今って…。

なんだか胸がぎゅっとなる。




『それで叶哉は?』


『分かったって言って、いなくなっちゃった。』



『けいちゃんは、その人と付き合うの?』



『うん。叶哉と別れたらすぐ付き合おうって言われてて。だからその報告です。』



『あ、そうなんだ。おめでとう。』


『ありがとう。そっちは?』



『相変わらず。』



やりとりの途中で電源を切った。


これ以上は限界。

ごめん。



けいちゃんのことは大好きだけど、今は、けいちゃんの幸せを喜べない…。



私は、落とし所のない気持ちを抱えて、外に飛び出した。



叶哉は、けいちゃんのことが、とっても好きだったのに…。


屋上へ続く階段の踊り場の奥で、けいちゃんを好きだと言った叶哉の顔が浮かんだ。



叶哉は今、どんな気持ちだろう。



私は、叶哉の面影を求めて、卒業した中学へと向かった。



日曜日の夕暮れ時、金網越しに見える校舎。



屋上へ続く階段はあの辺り。

校庭は、部活もなく静かだった。


時々、遠くでボールの音がするぐらい。


…ボール?



校庭を見ても誰もいない。


でも、時々遠くでボールの音がする。



『高校の部活帰りだったみたい』


けいちゃんの声が蘇る。

叶哉はサッカー部だったはず。



私は、迷わず 校舎と校舎の間にある中庭を目指した。


中学のとき、叶哉はいつもここで1人、ボールを蹴っていたから。



ボカッ

コロコロ…



ボスッ

コロコロ…



大きくなるボールの音。


それが誰なのかと容易に検討がつくくらい、聞きなれた音。



「叶哉!」



背中がビクッと反応して、地面に置いたボールを蹴り損なう。


私が走って近づくと、叶哉はボールを残して走って逃げた。



「ちょ、ちょっと叶哉!」



ボールを拾って追いかけると、校舎の陰にうずくまる叶哉を見つけた。



「叶哉…?」


「来るな!」



顔を伏せたまま、叶哉が叫ぶ。


「…なんでお前だけ来んの?景子は?景子はいねーのかよ?」



「…ごめん、私だけ…。」



「親友なら、景子連れてこいよ。お前じゃねーよ。」



叶哉は、ズズッと鼻をすする。


近づくと、叶哉は顔を上げて私を睨んだ。



「ふざけんな、景子連れてこい!お前なんか呼んでねーよ。」



私は、手に持っていたサッカーボールを置いて、叶哉の正面に座った。



「…もう暗いし、顔も見えないでしょ?だったら私をけいちゃんだって思えばいいじゃん。」



「…は?何言ってんだよ。ふざけんな。」


「…ふざけてないよ、叶哉。」




「ここにいるのがお前じゃなくて、本当に景子だったら…くそっ!」



頭を抱える叶哉を、思わず抱きしめた。


身体が勝手に動いて、叶哉をぎゅっと抱きしめる。



「…お前、なにしてんだよ。
てか、誰にでも抱きつくんだな。あんときも、年上の男に抱きついてたし。」




ああ、それは中学のとき。


叶哉に見られたくて、塾の先生にわざと抱きついた。



「うん、誰にでも抱きついちゃう。抱きつきマンでーす!」



「ふざけんな、俺から離れろ!
お前みたいな誰彼構わず抱きつく軽い女、俺は一番嫌なんだよ!」



ちょっとだけ、胸がチクンとした。

誤解されてもいい。




それでも今は、叶哉を抱きしめたくてたまらないよ。










好きな人を抱きしめたくなる瞬間、16歳。