未完:恋愛小説@15歳 「瞬間」シリーズ〜裏腹な瞬間〜 | 「蒼い月の本棚」~小説とハムスター(ハムちゃん日記はお休み中)~

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趣味で小説を書いています。絵を描いたり写真を撮ったり、工作をしたり書道をしたり、趣味たくさんです。古典で人生変わりました。戦国時代&お城好き。百人一首とにかく好き。2016年、夢叶って小説家デビューできました。のんびり更新ですが、どうぞよろしくお願いします。












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…………………15歳 「瞬間」シリーズ~裏腹な瞬間~

















受験に向けて、中3から個人指導の塾に通い始めた。






私の担当は、18歳の男子大学生。



たった3歳しか違わないのに、大学生っていうだけですごく大人に見えた。





先生が着ている服のブランドと、同じブランドの服を買って着てみる。


それだけで、自分が少し大人になった気分。




彼氏のいない私は、こうして大人な物を持つことで、取り残された気持ちを埋めていた。



正直、大人キャラを作っていないと、叶哉とけいちゃんの前に立っていられない。






「先生、このシャーペン欲しい。どこに売ってるの?」





「あー、これは大学の売店でしか売ってないから、買ってきてやろうか?」






先生のシャーペン。

友達は誰一人持っていないものだった。



差をつけたい。

大人に見られたい。






「うん、買ってきて!お金払う!いくらですか?」




「お金はいいから、中間で5教科420点以上とったらな。」





「えー、私、数学が…。」




「知ってるよ、だから、頑張れ。ちゃんと教えてやるから。」






私にとって、先生は大人な世界を垣間見せてくれる、お兄ちゃんのような存在だった。









「先生、中間で435!」





真っ先に先生の元に走っていくと、足がもつれて胸に飛び込んでしまった。



スポンとハマるように抱かれて、不思議な感覚。





「元気だな。」




「す、すいません。」




私は、慌てて先生から離れた。

そんな私に先生は、優しく言葉をかけてくれる。




「よく頑張ったね。まさか本当に取れるとは思わなかったよ。」




先生は、約束のシャーペンを机に置いた。




「俺のやるよ。ケチッたわけじゃないよ、なんとなく、俺のを使ってもらいたい気分だから。」




先生は、にっこり笑ってシャーペンの芯を出す。





「俺さ…キミみたいな一生懸命な子…



私のノートに先生が書いた文字。


『好きだよ。』




私がびっくりして先生を見ると、先生はウンと頷いた。





『卒業してから、俺とつき合って。』






…なにこれ…どうしよう。


先生を好きとか、ない、絶対ない。






『返事は合格してからでいいから』



先生のペンは、最後にそう綴られていた。













…付き合うって?


先生と?私が?


どうしよう…。





「おい、なにボーッとしてんだよ。プリント取れよ。」




前の席の叶哉が、プリントを指でつまんでぶらぶらさせている。




「あ、ごめん。」




「お前、なんか顔赤いけど。」




「え?」




うわっ、こいつにばれたら死ぬ。






「…なんでもない。」



「あっそ。」




叶哉は、林間学校の時に告白してから、けいちゃんと付き合っていた。













先生のことを意識し始めると、個別指導は辛い。



最近は、ほとんどなにも話さず授業を終えて、早々と外に出ていた。



息がつまりそう。






「待って。」



振り向けば、先生が走ってくる。




「今日、俺も終わりだから、途中まで一緒に行こう。最近、全然話してないし。」




断るわけにもいかず、先生と並んで歩く。


左側に感じる違和感。





「…あの話なんだけどさ、今すぐにってことじゃなくて…




なんか、こういう話、嫌だ。


心の中でため息をついた。











…あれ?叶哉?



駅前のファーストフードに、叶哉の姿を見つけた。






「…座って。」




先生に言われるまま、駅前のベンチに座れば、目の前に叶哉。





「大学生の俺が、中学生のキミに本気なのかって思われそうだけど、俺はキミを…





しばらくして、けいちゃんがお盆を持って叶哉の隣に座った。


なんだろう、全部嫌だ。







「…聞いてる?」



先生に呼ばれて、ハッとした。




「あ、はい。すいません。」



「次、聞いてなかったら、抱きしめちゃうからなー。」








私は、先生の方を向きながら、横目で叶哉を見た。




…‼︎




叶哉が、何気なくこちらを向いて私に気づく。



ドキッとして、身体が動かない。





「あー、もう、冗談だからね。そんなに固まらないで。
俺、なに言ってんだ、冗談でも言っちゃダメだよな…って…え?」






私は、先生に抱きついた。


先生の肩越しに、叶哉と目があった。






叶哉はスッと視線を外し、けいちゃんを連れて店の奥へと消えていった。






私は、この日を最後に塾を辞めた。










裏腹な気持ちは苦しいだけだと気づいた15歳。