……………………13歳「瞬間」シリーズ~ときめきの瞬間~
「ねえ、ときめき方を教えてよ…。みんな恋してるのに、私だけ枯れてる。」
長箒の柄にもたれて、ため息をついた。
今は掃除の時間。
私は箒担当で、チリトリは叶哉(かなや)。
「は?なんだよそれ?俺に聞かれたって知らねーし。」
叶哉は、私を見上げて眉をひそめた。
「だよね、叶哉に聞いたって無理よね。叶哉だし。」
叶哉は、ゴミでいっぱいになったチリトリを持って立ち上がる。
私がゴミ箱を寄せると、叶哉は、ガンガンと大きな音を立てて、チリトリに集めたゴミを捨てた。
「だいたい、チビでアホの叶哉にときめく奴なんか、この世にいるのかねー。」
もう一度、周囲のゴミを集めると、叶哉は屈んでチリトリでゴミを受け、ガンガンと音を立ててゴミを捨てる。
「はー、お前ふざけんな。ごちゃごちゃ言ってねーで、そこどけ。」
叶哉はチリトリを床に置くと、ゴミ箱に手をかけた。
「えー?まだゴミあるじゃん。」
「も、いーからどけ!」
「まだだよ。」
私が遠くのゴミを集めだすと、叶哉は、私の箒を掴んで取り上げようとした。
離すまいとぎゅっと握ったら、叶哉が強く引っ張った拍子に飛ばされて、壁に激突。
床に尻餅をついた。
「…いったー!もう、叶哉!なにす…
「あ、わりー。大丈夫か?」
ドン…こっちにもドン。
顔の左右に聞こえたドン。
…へ?
何これ…叶哉の両手?
私って、もしや…
もしや壁ドンされてるー!
「おい、どっか打ったか?保健室行くか?」
ち、ちかっ!
ていうか叶哉、壁ドンしてるってわかってないの?
「返事しろよ?頭打ったか?」
「…壁ドン…。」
思わず口から出た言葉に、叶哉の顔がみるみる赤くなって、壁から手がパッと離れた。
「…うっせ!」
あ、あれ?なんだこれ?
「お前なんかに壁ドンなんかしねーし。」
あ、なんだ、なんだ、いったい。
「つーか、ゴミ捨ててくるから!」
叶哉が、ゴミ箱を抱えて教室をでていった。
あ、あれ、マジで?マジか?
やっばい。
もしかして私、叶哉の壁ドンで、めっちゃときめいてるんじゃー?
ちょ、まって。
どんだけ飢えてんの、私。
叶哉だよ?
…叶哉…じゃん。
チビで、アホな叶哉なのに…。
力、あんなに強いなんて知らなかった。
しかも、大丈夫とか、真面目に心配してた顔が、ちょっとかっこよかった…。
は?
叶哉がかっこいい?
ないない、ないよー!
恋したことを、素直に認められなかった13歳。
…………
この話は、恋愛の「瞬間」を切り取って、幾つか書いてみます。