未完:恋愛小説@第3話「tears of love」 | 「蒼い月の本棚」~小説とハムスター(ハムちゃん日記はお休み中)~

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趣味で小説を書いています。絵を描いたり写真を撮ったり、工作をしたり書道をしたり、趣味たくさんです。古典で人生変わりました。戦国時代&お城好き。百人一首とにかく好き。2016年、夢叶って小説家デビューできました。のんびり更新ですが、どうぞよろしくお願いします。










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…………………「tears of love」第3話












「あんたの男、他に女がいる。」




清宮くんの言葉が引っかかる。

彼氏は、確かにいる。だけど…?









曽根崎先生とは、教育サークルで知り合った。

見た目は若いが、歳は20離れている。


仕事の悩みを相談しているうちに、自然とそんな感じになった。






…清宮くんは、曽根崎先生のことを言っているのだろうか。







その時、ブーンと携帯が鳴った。


画面で曽根崎先生からの着信だとわかり、もうそんな時間かと時計を見る。

待ち合わせまでは、後一時間ほど。






「も、もしもし?」


「今日なんだけど、急に会議が入って行けなくなった。ごめんな。」


「あ、うん、大丈夫です。私も、まだ仕事が残っていますから…。」




用件だけの短い電話。


同業なので、忙しさは十分理解できるし、年齢的にも、責任ある立場にあるのもわかる。



それでも、急なキャンセルは、やっぱりせつなかった。





私は、机の引き出しから封筒を取り出すと、中から二枚のチケットを取り出した。




曽根崎先生が、行きたいって言っていたコンサート。

驚かそうと思って、内緒でとっておいたのにな…。



私は、大きくため息をついて、チケットを封筒に戻した。




さて、どうしよう。

一人でも行くか、それともやめるか。


行くならば、もうそろそろ会場に向かわないと間に合わない。



「気晴らしに…行ってくるか。」



私は、急いで帰り支度をして、学校を後にした。


















開演まであと30分ほど。

会場前は、多くの人でごった返していた。




入り口は…?



立ち止まり周囲を見渡すと、当日券を求める長い列に見覚えのある姿。





目を凝らして、もう一度。


私服だからか、ちょっと感じは違うけれど、やっぱりあれは清宮くんだ。

さっきまで一緒にいたんだし、間違えるはずはない。





「…清宮くん?」


その丸くなった背中に声をかけた。

ビクッと肩が動いて、ゆっくりこちらに振り返る。




「…なんで…。」


それだけ言って固まった清宮くんのカバンを掴んで、列から少し離れたところまで引っ張った。


まだ、強張った顔つきの清宮くんに向かって、チケットの入った封筒を差し出すと、


「これ、あげるよ。二枚あるから…はい。」




「え?…あんたは?」


やっと口を開いた清宮くんの手に、チケットの入った封筒をねじ込んで、私は首をふる。



「一緒に行こうと思ってた人が行けなくなっちゃって、とりあえず来てみたんだけど、やっぱり一人で入るのは、なんだか気が引けて…行きたい人が行く方が、アーティストだって喜ぶだろうし…ね。」



「いや…俺は…。」


「いいから、早くしないと始まっちゃうよ。」



そうこうしているうちに、開演のアナウンスが聞こえてきた。



「チケットあげたことは、内緒だからね。さ、いってらっしゃい。」


私は、にっこり微笑んで小さく手を振った。


「ったく、あんたって…。」




「えっ?な、なに?」


清宮くんは、私の腕を掴んで、会場の入口向かって走り出す。




「え?ちょ、ちょっと!」


そのままズルズルと会場まで引きずられ、有無を言わさず席まで連れていかれた。



「私は、入らなくてもよかったのに…。」



清宮くんは、周りをキョロキョロ見回しながら、私に座るように促すと、双眼鏡を取り出して、会場をぐるりと見渡しはじめる。




「ていうか、俺、やることあるから…あんたは、ここから動くなよ、いいな?」



「え?コンサート、見ないの?」




清宮くんは、双眼鏡から目を離して私に言った。



「相変わらず、ごちゃごちゃうるせーな。とにかく、ここから動くなよ。」


清宮くんは、何度も動くなと言い残して、ものすごい勢いで駆けていった。



「ちょっ、ちょっと、清宮くん!」




私の声は、暗転したと同時に巻き起こった大歓声にかき消されてしまった。