……………………「tears of love」第2話
驚いたことに、追試は満点。
私は、答案用紙を返すために、清宮くんを準備室に呼び出した。
バンッと、大げさに開くドアに驚きつつも、今日も…来てくれた。
「テスト、返すね。」
私が、答案用紙を差し出すと、奪うように手にとって、ぐしゃっと丸めてポケットにいれる。
清宮くんは、両手をポケットに突っ込んだまま動かなかった。
「ん?なに?」
確かに…清宮くんの前では怒ってばかり。
そういいながらも清宮くんは、答案用紙をきちんと折って、もう一度ポケットにしまった。
思わず謝る私を見て、清宮くんの表情が一瞬緩んだ。
口元を手で覆って、尖った目尻がキュッと下がる。
「あんた、思ったよりバカだな。」
「きょ、教師に向かってバカとはなによ!だいたい私がいつも怒られてるのは、あなたの…
「あ、だから、ダメだって、せっかくの…。」
伸ばしかけた手を、ぐっと握った。
「ごめん、もう関わらないんだったね。いいからもう、行きなさい。
あ、それから…満点、おめでとう。」
このテストで満点を取るのは、容易なことではない。
理由はどうあれ、清宮くんの頑張りは賞賛に値するものだ。
清宮くんは、両手をポケットに突っ込んだまま動かなかった。
「ん?なに?」
「いや、初めてだ。
俺の前であんたが笑うのは。」
「え?あ、そうかな?」
確かに…清宮くんの前では怒ってばかり。
ポケットに突っ込んだままの清宮くんの手が、丸めた答案用紙と一緒に、もう一度私の目の前に現れた。
清宮くんは、それを机の上にボンと放り投げる。
答案用紙はコロコロ転がって、私の前でピタリと止まった。
「…で、せっかくの、なに?」
「あ…えっと…せっかく満点とったんだから、大切にした方がいいと思って。きっと、ご家族の方も喜ぶだろうし…。」
「くだらねー家族しかいねーよ。俺のことなんか誰も気にしちゃいねーから。」
私は、丸くなった答案用紙を手に取ると、両手で開いてシワを伸ばした。
「じゃ、私が代わりに喜んであげる。
おめでとう。素晴らしいよ。こんな点数、私だってとったことないよ。頑張ったね。偉かったね。すごく嬉しいよ。」
清宮くんは、私を見て、目をまん丸くしている。
「もっと喜ぼうか?」
「ばかじゃねーの?」
そういいながらも清宮くんは、答案用紙をきちんと折って、もう一度ポケットにしまった。
「ほんと、うるせーし。」
「あ、ごめん。関わらない約束だったのに。」
「いちいち謝んじゃねーよ、教師だろうが?」
「あ、ごめん…あっ、やだ。」
思わず謝る私を見て、清宮くんの表情が一瞬緩んだ。
口元を手で覆って、尖った目尻がキュッと下がる。
「あんた、思ったよりバカだな。」
「きょ、教師に向かってバカとはなによ!だいたい私がいつも怒られてるのは、あなたの…
そこまで言って、言葉をぐっと飲み込んだ。
「俺のせいだろ。だったらもう、俺には関わんなよ。」
清宮くんは、カバンを掴んで肩に担ぐと、ドアに向かって歩き出す。
「もう暗くなるから、気をつけて帰ってね。」
私は、その背中に向かって声をかけた。
「ガキ扱いすんな。」
清宮くんは、ドアをガンと蹴って振り向くと、
「あんたの男…他に女がいる。」
そう言い残して、教室から出ていった。