駅の階段を降りていた。
一瞬のことだった。
後ろから猛烈な勢いで駆け下りてきた50代くらいの男性が、
私の持っていたクリアケースに足をとられ、そのまま転倒して、
前の女性にぶつかりながら頭から落ちた。
呆然とするのは、私とぶつかられた女性。
駅を行き来する人は遠巻きながら視線を投げかけるのだけれど、
通りすがりという線を越えることなく、よけるように道を急いだ。
倒れた男性と同じくらいの男性がかけより、
声をかけるなか、
「大丈夫ですか」と独り言のようにつぶやくことしか出来なかった。
びっくりしたのも、確か。
だけれど色々な感情が巻き起こって、駆け寄れなかった。
私のせいなのか?とか。
なんて厄介なことに。とか。
元々なのか、周りに知らない他人ばかりのなかでの暮らしからなのか、
面倒なことには極力関わりたくない。
幸い男性は顔をすりむいただけのようだが、ショックは相当あったと思う。
その場を離れてから、自責がとまらなくなった。
とっさのとき、どうして逃げてしまうのだろう。
どうして面倒臭いとか、ついてないとか、
心配したり気がかりにする反面、そういう気持ちのほうが勝ってしまうのだろう。
そして、葛藤に押されて、結果的に何もできないのだろう。
極めつけに、こうして滅入っている。
本当に未熟な人間だと思った。
転んだのが私ならよかったんだ。
誰も助けてくれなくても、そのほうがよっぽど、気が楽だった。