私は本気で問いたいんです。
良いレイアウトの基準を人の前で、具体的に説明出来ますか?
もし、出来ないなら、何を基準にOKを出しているんですか?
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私は、そんなに偉そうにレイアウトを語れる程のキャリアを持ち合わせていませんが、
オレなんかが、私なんかが偉そうにレイアウトについて講釈たれるなんておこがましい。
と誰もが言っていたら、新人が困るんですよ。
私も実は、自信が無いと思っている節はあります。
なぜなら、誰にもレイアウトについて、教わったことがないからです。
ただ、私の経験で、自分なりに考えた経緯を話すことは、誰かの気づきなればと思ってはいますので、仕事しながら考えていった事などをまとめてみたいと思います。
私が、新人だった頃の話です。
当時のCGディレクターから、アニメーションチェックを受けていて
「お前は、動きはまあまあ上手いけど、レイアウトがダメだな」
と指摘を受けたことがありました。
当時、レイアウトの重要性だけは色々と見聞きして、知っていたので、何とかしたくて
CGディレクターに何が悪いのか具体的に質問したことがあります。
そこで返ってきた言葉は今でも憶えています。
「言葉にするのが難しいんだよね。絵として良いかどうかってことなんだよ」
・・・何も言い返せませんでした。
上手い先輩でしたから、自分の未熟さが恥ずかしくなり、それ以上の質問は控えました。
ただ、言っていることは理解しようとは努力してたんですが
新人なので、何を直したらいいかわからないんです。
いや、でも、細かいバランスの悪さとかは何となく分かるんですよ。
でもコレ!っていう正解の答えがわからないんです。
それから、ネットで色々調べて、数少ないレイアウト本と言われる、押井守監督の「パト2」や、「イノセンス」の本、富野本、それから、アニメの作画の本、コンテの本、構図の本、レイアウトの記述のある書籍をひたすら色々買い漁り、アニメーターと名の付いているブログも読みまくりました。そこでおススメしていた「レイアウトが良いアニメ」とやらも色々観ました。
ですが、エッセンスとしての知識や構図のレパートリーは手に入ったものの、恥ずかしい話、本質的なものは、全くわからなかったんです。
ああ、レイアウトアニメみても、何が良いのかさっぱりわからなかったので、自分は落ちこぼれだ。そう思って、しばらく凹んでいたのですが、その話を別の同僚や、別の上司の人にも話したら
なんと!同僚も上司も誰1人として良いレイアウトの基準の答えを持っていないのです。
全員、言ってることが曖昧なんです。
困惑しました。
え?なんで?????
みんなあれだけ、レイアウトを語り、レイアウトは重要だと言っているのに
なぜ、誰一人「良いレイアウトの定義」を説明できないの?ばかなの?
自分でも咀嚼出来ていないくせに、後輩にリテイク出すなよ!
と、新人ながらに沸々したものも抱えましたが、ぐっとこらえ
自分は後輩が出来た時に、こういう曖昧な教え方は絶対したくないなと思い
何か、自分の中で「良いレイアウトの基準」みたいなものを作ろうと試みました。
私の中で、明確に基準が出来たのは私がコンテ、演出の仕事をした時のことです。
逆に言えばCGアニメーターの仕事の中では、ずっと気づけませんでした。
コンテ、演出というのは、全てのカットを人に説明できるようにしなければならない状況に強制的に置かれる訳です。そして、担当者に質問を受けたら実際、すべて答えられなければ、作品が完成しませんので、演出失格です。
なぜ、このカットが必要で、このカットの絵のバランスはこの理由があるので変えられないとか、自分の中の曖昧なものを、ひたすら言語化する作業をやっていく中で、ちょっとヒントを掴んできたのです。
その時、アニメーターやっている時に見ている景色とは明らかに違う景色が見えていたんですね。作品全体をフカンしてみると、ココのカメラはこうあるべきだし、つなげてみると絵が繋がらなかったり。
そういう悪戦苦闘するうちに、れっきとした「人に説明できる根拠」が出来上がってきたのです。
その時、はじめて、「そうか、レイアウトっていうのは、こういうことなんだな」と実感として思えるようになったのです。
全体尺などの、絵とは違う部分の調整など、レイアウト次第で出来てしまうという「便利さ」はコンテ演出をやって、はじめてわかったことです。恥ずかしながら。
あんなにも3Dレイアウト作ってたのに、全然これに気づけなかったのは
作画と違って、CGアニメーター育ちだからなのかもしれません。
なぜなら、キャリアとしての動画、原画をすっとばしてしまうからから、一枚の絵に対する重みが違うんですね。
修正できないフィルムカメラと、撮り直しが自由なデジカメの、一枚に対する重みの違いに似ているかもしれません。
とりあえずレンダリングして、後でphotoshopやAEで調整すればいいやっていう、デジタルな作り方に慣れすぎていた弊害ですね。
そういう便利すぎるものは、やっぱり本質を見失うと深く反省しました。
少し、話がそれました。
★良いレイアウトの基準の話に戻ります。
良いレイアウトの基準というのは、十人十色な部分がありますので、正解はひとつでは有りません。
ただ私が、これはどの演出も共通で当てはまるのではないかという基準を紹介します。
★良いレイアウトとは、演出が各カットに込めた「このカットではこう感じて欲しい」という気持ちをカメラで切り取れていて、意図したことが伝わるものが良いレイアウトである。
というのが私の考えです。
その上で、「絵として美しい」「気持ちが良い」「構図が斬新」「空間を感じる」といった、要素が上に乗ってきます。
逆はありえないのです。時に、美しくないレイアウトが「演出的に正しい」場合もあるからです。
例を挙げると、
カメラでワニを近づきながら、撮影しているのを、ファインダー視点で見せるカットがあったとして、ワニが気づいて襲ってきて逃げる時にカメラが綺麗に動いていたら変ですよね?
なので被写体が大きく外れて不恰好になっているのが、この場合は正解のレイアウトです。
私が新人の時に混乱していたのは、「良いレイアウト」というのを
ただ美しい構図の絵のことを指す人があまりにも多い為です。
美しさ程、人に言葉で説明しにくいものはありませんよね。
なぜ、私の先輩、同僚が誰一人として良いレイアウトを人に説明できなかったのかというのは
皆、「美しさ」こそが良いレイアウトだと思いこんでいるからだと思うのです。
美しさの言語化は本当に困難ですから。
同じ絵を絵をみて、全員が全員、同じ様に感じる人はいいですが、実際はそうではありません。
ピエロを見て、楽しそうと感じる人も要れば、恐怖を感じる人も居るのです。
繰り返しますが、私の考える、良いレイアウトとは、演出の意図が正しく表現できていて、
効果的に表現出来ているというのが、私が考える基準です。
表現を効果的にする為に「美しさ」が必要なのです。
混同する人が多い理由もわかります。
大抵、絵として美しいレイアウトと言うのは皆が好むので、ほとんどのケースにおいて
正しいと結果的に ”なってしまうこと” が多いからです。
★まとめます
映像のカットには、こういう意図があって、こういう様にみせたいから、という理由が必ずあるはずです。
その基準は作品によって、変わります。
演出の視点に立ち、正しいレイアウトが作れるようになるのが、第一歩だと個人的には感じています。
他作品の素晴らしく美しいレイアウトを、今現在あなたが作っているカットに敷いたところで、当たり前ですが、そのカットは良いレイアウトにはなりません。
「演出」を意識する事が、本質に近づける道なのだと私は考えます。
★アニメーターさんへ、おまけ問題
「美味しそうなりんご」と、コンテのト書に書かれているカットがあった
として、真ん中にりんごがラフに描かれています。
あなたはどういうレイアウトを起こしますか?
あなたはコンテに描かれているとおりに、被写体がど真ん中になるようとらえますか?
アオリにしますか?俯瞰にしますか?
この、問題に明確な答えはありません。
真ん中に被写体が捉えられていれば、美しいかもしれないけど、美味しそうで無ければ、カットが存在する意味はありません。
つまり、コンテの意図を読み、普段から、りんごを美味しそうに見せられるか観察している人だけが、正解に近づけるんですね。
レイアウトとはそういうものだと思うのです。