NORIKUMAです。




久しぶりに最高裁判所のHPに法人税の事案の一部破棄自判、一部差し戻しの判断がなされた判決文がUPされた。




なになに・・、どんな判断されたの。ワクワクして読んでみると・・。




「債務免除益は,所得税法28条1項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与に該当するものというべきである。」(H27.10.8 最高裁)




って・・・普通じゃん。




改めて、最高裁が言うほどのものでもないと思うが、こういうのを読むと、そもそも下級審がどんな判断をしていたのかが気になる。




事案の概要は下記のとおり。

この事件は、青果荷受組合である被控訴人A組合の理事長であった甲が、A組合に対して55億6323万0934円の借入債務を負っていたところ、A組合が不動産売却代金と相殺後の甲に対する残元本債務48億3682万1235円を免除したことにつき、本件債務免除により甲が得た経済的利益は賞与に該当するとして、控訴人が同債務免除等に係る源泉所得税18億3550万6244円の納税告知処分及び不納付加算税1億8355万円の賦課決定処分をしたのに対し、A組合がその取消しを求めたところ、原判決がA組合の請求を認容したため、国が控訴をしたという事案である。




思い出したわ。これ、岡山地裁(H25.3.27)と広島高裁(H26.1.30)がともに納税者の主張を認め、処分の全部取消しの判断をしたものね。




広島高裁は、下記のような判断をしている。

「A組合の甲に対する貸付金が長年利息の減免を受け、利息が細々と返済されているものの、元本返済の目処も立たない不良債権であったところ、甲の課税処分に対する過去の異議決定において、平成17年の債務免除益につき本件通達が適用された後、甲の資産の増加がなかった状況下で、本件債務免除がなされたという事実経過からすると、本件債務免除の主たる理由は甲の資力喪失により弁済が著しく困難であることが明らかになったためであると認めるのが相当であり、債務者が役員であったことが理由であったと認めることができない。
したがって、本件債務免除は、役員の役務の対価とみることは相当ではなく、「給与等」に該当するということはできないから、本件債務免除益について、A組合に源泉徴収義務はないというべきである。」




ここでいう本件通達とは、所得税基本通達36-17だ。




これを読んだ時に、?と思うところはあったのは事実。甲は、年間収入として不動産収入や役員報酬等合計3746万5786円を得ているし、債務免除当時の乙の資産は2億8222万5622円だった。




地裁では、

「本件債務免除当時の乙理事長の資産は2億8222万5622円にすぎなかったのであるから、乙理事長の負債はその資産の実に20倍に迫る金額に達しており、債務超過の状態が著しいものであったといえる。
乙理事長は、年間収入として不動産収入や役員報酬等合計3746万5786円を得ているが、上記債務の額が多額であることに鑑みれば、これらをもって近い将来において本件債務全額を弁済することが可能であるということもできない。」として「本件債務免除益にも、本件通達の適用があるものと認めるのが相当である。」と判断した。




もう一度、最高裁に戻るが、最高裁が、給与該当性を認めた理由は、下記のように記している。

「被上告人がAに対してこのように多額の金員の貸付けを繰り返し行ったのは,同人が被上告人の理事長及び専務理事の地位にある者としてその職務を行っていたことによるものとみるのが相当であり,被上告人がAの申入れを受けて本件債務免除に応ずるに当たっては,被上告人に対するAの理事長及び専務理事としての貢献についての評価が考慮されたことがうかがわれる。これらの事情に鑑みると,本件債務免除益は,Aが自己の計算又は危険において独立して行った業務等により生じたものではなく,同人が被上告人に対し雇用契約に類する原因に基づき提供した役務の対価として,被上告人から功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与された給付とみるのが相当である。」




Aとは、高裁でいう甲のこと。




ここで、まとめてみよう。

地裁    本件債務免除益=給与所得   だが、債務者の状況を考慮し、所得税基本通達36-17を適用し、給与所得の収入金額に算入しない。

高裁    本件債務免除益≠給与所得   債務免除の理由により、給与該当性を否認

最高裁   本件債務免除益=給与所得   債務者の状況を考慮し、給与所得の収入金額に算入するかしないか、もう一度審理するため、高裁に差し戻し。



この裁判での争点は、2つ。1つは、給与所得に該当するか、もうひとつは、給与所得の収入金額に算入するか。

そのため、法解釈では、最高裁は正しい。そもそも、本件債務免除益は給与所得である。




で、問題の本質はそこではない。つまり、給与所得の収入金額に算入するかしないかだ。






なので、最高裁には、正直、差し戻してくれてありがとうと思っている。





確かに、約48億円の債務。返せんやろ。でも、毎年、一定の収入があるんやっつたら、細々とでも返せばええやん。それでもだめなら、債務免除。

でも、やっぱり、返せへんとわかっているんなら、この時期に債務免除してもええんか。

貸していたほうからすると、「借金の返済もないのに、さらに源泉所得税と不納付加算税って、ふざけんな」というのもあるだろうしね。




正直、判断は難しい。結局、正解がないような事案だろうね。




この債務免除の時期やその判断について、疑問があったので、きっと差し戻しの高裁では、その辺の判断基準について、詳細な事実認定の基準がでてくるのではないかと期待している。




ただ、正直なところどうなん。差し戻された高裁では、最高裁から差し戻されたプレッシャーで、地裁、高裁のように処分全部取消しの判断がでるのか。




約48億円の債務免除。給与所得の収入金額に算入しないか、それとも算入して組合に源泉所得税18億3550万6244円と不納付加算税1億8355万円の納付をさせるか。





NORIKUMAが裁判官なら、どちらの判断をしても、後悔するかもね。





NORIKUMAクマ