[本] 民衆は戦争嫌いだったか? / 日本人はなぜ戦争へと向かったのか メディアと民衆・指導者編 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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8月15日が近づくとTVで太平洋戦争・第2次世界大戦に関する番組が増えます。
ふだん戦争や内乱に直接さらされることがない日常をおくっているので、この時期には戦争に関する本を手にとることにしました。

どうせ手にとるならば、とこれまで腑に落ちていなかったことに関するテーマの本を探することにしました。
それは、あの時代、国民は戦争をどう見ていたんだろう、ということです。

私が小学生の低学年だった頃、祖母が戦時中に物が配給制になり暮らしが不自由だったことを話してくれたことがありました。
その時、最後にこんなひと言をつけ加えたことが記憶にあったのです。
「戦争を始めた時は、みんなバンザーイってよろこんでいたんだけどねぇ」

別に私の家族が好戦的な一家だったわけではありません。国民がよろこんでいたという感覚を確かめたいとずっとひっかかっていました。
そんなことを考えながら探したところ、おあつらえ向きな一冊を見つけました。


   ◆      ◆      ◆
 

2011年刊、2015年文庫化
お気にいりレベル★★★★★

 

先日、紹介した手塚治虫の本に、情報は送り手の都合のいいように発信されるので注意、という くだり がありました。

戦時中、言論統制が敷かれたので、当時のマスコミは自分たちの都合のいい情報を発することができなかったのでしょうか?
いいえ、新聞社は開戦の真珠湾攻撃(1941年12月)どころかその10年前の満州事変(1931年9月)には好んで戦闘を取り上げていたことを、この本を読んで知りました。
手塚治虫の言うように情報の送り手に都合がいいのであれば、日本が戦争をすることを支持する記事を書くことが、新聞社にとってどのように都合がいいことになっていったのか明かにされています。


   ◆      ◆      ◆

そして、私の祖母が話していたように、開戦当時、国民は戦争に反対する人はごく一部で多くは賛成していました。
その当時の国民、というと堅苦しそうならば庶民には、日本が戦争をするということがどのように映っていたのか、明治維新以来の歴史のあらましをたどって納得しました。経済、国の地位向上やプライド、あるいは意地とでもいったらいいでしょうか、当時の目線は現代とかなり異なる部分がありました。

戦争に批判的な新聞社には、不買運動まで繰り広げられたそうです。自分たちと異なる考えの存在を許容せず排除に走る様子は、現代のヘイトに通じるものがあると感じました。

さらに驚くことに、アメリカとの開戦には日本の政治家・軍人のトップ層は反対だったのです。
日米間の圧倒的な国力の差を考えれば、自然な考えです。
それが、どうして真珠湾攻撃をしてしまったのか、この本ではインタビューや文書の記録を通じて指導者のリーダーシップや「空気」をたどります。


   ◆      ◆      ◆
 

では、おかしいと思いながらも止められなくなる社会の暴走は過去のものになり、もう現代では再現する懸念はないのか、気になるところです。
もし人間の さが から起きることであれば再発の可能性があります。この本で脳科学の視点から確かめてみました。

22020年刊
お気にいりレベル★★★☆☆


(詳細は書けませんが)本能レベルで持っている私たちの特質に、異質と感じるものを排除する面がありました。
開戦かどうかは別にして、大事な岐路にたった時、やはり異質な意見自体を排除しようとする確率があります。
さらに、日本の社会の特質が加わると、指導層の迷走も確率が上がりそうです。


   ◆      ◆      ◆

投票や多数決は、民主主義の基本的な手段です。
でも、東アジアの一党独裁や世襲の独裁者も選挙で多数決で成立しています。
それが機能するためには、ことなる価値観の存在を許すことが前提です。

異なる価値観を持つ人々の間で議論するには時間と忍耐を要します。
いわば民主主義の副作用というかコストとでもいいましょうか。
有事の際、迅速に判断して行動できるようにするためには、あらかじめ明確な判断基準を設けて、時代の変化とともに絶えず判断基準を修正していく必要がありますね。修正しても明確で客観性が必要なことはもちろんです。


   ◆      ◆      ◆

この本で、民意について書かれた件があります。
意見・考えを反映する与論(public opinion)と、空気・感情を反映しがちな世論(populer sentiment)が異なることを意識する必要がありそうです。
さらに、世論はそれがあることで得する人々が作り上げた意見 それを民意と言って使うので、情報の受け手として注意が必要だと。

SNSの普及で好む情報ばかりを読み、
分断された世論の中で政治が根拠が不明な決定がされ、
その説明責任が果たされず、
近隣諸国との関係が悪化し、
核や環境の国際的な意志表示には参加せず、
一部国際的な連盟から脱退し始めたり・・・・・・。

日本が孤立の道を歩み始めているのではないか懸念しています。



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