新たな家族像を描いた小説と裏表紙に紹介されていますが、
私にはバラバラな個人を描いた小説に思えました。
それが、新たな家族像のひとつということなのでしょうか。
◆ ◆ ◆
森の家 / 千早茜 (講談社文庫)
600円+税
2012年刊、2015年文庫化 |
アパートの更新を機に、
美里がひと回り年上の恋人の佐藤さんと、
父親を聡平さんと呼ぶ20歳になる息子まりも君と
3人で暮らし初めて1年になります。
住んでいるのは10年以上前に亡くなった佐藤さんの奥さんの実家。
木々が鬱蒼と繁り四季の巡りを感じる家です。
はっきり約束した訳ではありませんが、
互いに干渉することなく、気ままに一つ屋根の下で暮らしています。
◆ ◆ ◆
ある日佐藤さんはいつも通り家を出たまま帰ってきません。
危ういバランスの上になりたっていた暮らしが、
まりも君は、父親がもう戻らないといいます。
佐藤さんの失踪により一気に倒壊しました。
母との確執を抱えつつ、3人の暮らしを取り戻そうとする美里。
自分をとりまく環境を淡々と受け入れるまりも。
微笑みの裏に何かを隠したまま失踪した佐藤聡平。
3篇が、美里、まりも、聡平の語りで進み、
それぞれの関係、孤独と葛藤を明らかにしていきます。
◆ ◆ ◆
木が鬱蒼とした家と、確執を包み隠しながら能天気に時を流す美里。
エレクトリカル・パレードと、心の内を明かさず淡々としたまりも。
人影のない湖と、自然体に見えても女性の影に狂気を宿した聡平。
シーンと語り手の心の内のアンバランスが、
3人が言葉にしない不安と、孤独、欠落を浮かび上がらせます。
その欠落感を埋めるものが見つかるのか・・・・・・。
希望の兆しを見せるラストシーンの後の時間を、
美里、まりも、聡平は、それぞれどんな心の在り方に変えていくのか、
それとも持ち続けるのか。
想像しても、像を結びきれないもどかしさが、
この小説の不思議な魅力でした。
[end]
*** 読書満腹メーター ***
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