嫉妬、優越感、劣等感、嫌悪といった、悪意に転じやすい感情、
いいかえれば、人のイヤラシサを、
ほれ、と物怖じせずに見せてくれる小説は私の好みです。
小説に登場するイヤラシサが、
読み手の私自身の中にもあることに気づくと、
まだ自分自身を見失っていないことに、ほっとします。
◆ ◆ ◆
愚行録 / 貫井徳郎 (創元推理文庫)
756円 Amazon、594円 Kindle版
2006年刊、2009年文庫化 |
都内23区内で夫婦と小学校1年の少女一家3人が刺殺されました。
若くして23区内に一戸建てを購入できる収入もあり、
幸せそうな一家でした。
捜査の方は、犯人に関する有力な手掛かりがない模様です。
そんな事件の背景を追う雑誌記者が、
被害者家族に所縁のある人々をたどって取材しています。
近所の主婦、ママ友、夫の仕事の同僚、妻の慶応大時代の友人、
夫の早稲田大時代のサークル仲間、妻の元バイト仲間・・・・・・
次第に被害者夫婦の人となりが明らかになっていきます。
果たして、そんな取材から犯人に行きつくのでしょうか?
◆ ◆ ◆
徐々に明らかになる被害者夫婦それぞれの
社会人として、主婦として、母として、学生としての言動。
所縁ある人たちの話から明らかになる内容は、
この小説のタイトルから推して知るべし、といったところです。
とは言え、
言動が他人の視線を通すと、こんな風に解釈されるのか、
と改めて恐ろしく思いました。
◆ ◆ ◆
取材を受けた側が自分が善人に映るように言葉に配慮しても、
むしろ、そんな言い方をしたからこそ、
話手のネガティブな感情が透けて見えてきます。
被害者夫婦のことを語っているはずなのに、
話し手の嫉妬、蔑視、優越(への憧れ)といったフィルターが
読み手に伝わってきて、
「それって、あんたこそ」
と話し手の愚行も浮かびあがってきます。
という読み手の私自身の悪意のフィルタも浮かびあがります。
記憶の98%を構成するのは感情なんじゃないかと思えてきました。
[end]
*** 読書満腹メーター ***
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