よその国の大統領が、テロ防止を目的に特定の国の国籍の人々を
入国させないと法律を出したことに対し、
そしてその国民の約半数がそれを支持していることに対し、 日本で次々に非難の声が挙げられています。
その国は、これまで多くの移民や難民を受け入れてきました。
その数は日本のそれらと比べれば文字通り桁外れです。
近隣に保育園が新設されることすら拒んだり、
外国人が集まっているだけで白い目で見ている様子を見てきて、
自分の国は、よその国の大統領を非難できるほど寛容だろうか、
そんなことを考えていた矢先、こんな本と出会いました。
◆ ◆ ◆
本を読むひと / アリス・フェルネ (新潮社クレストブックス)
2,052円 Amazon
2016年刊 |
流浪の民ジプシーの一族がパリ郊外の元野菜畑だった空地に、
キャンピングカーとトラックを停め、住みつきました。
老母、息子5人、嫁4人、孫8人、計18人の大家族です。
空地の地主は彼らが留まることに寛容ですが、
自治体はジブシーに居留地を確保しなければならない
義務があるにも関わらず、
周辺住民も、住民の意向が気になる自治体もその長も、
できれば彼らを立ち退かせようと躍起です。
文字も読めず、働かず、盗みを働くし、たき火をたくし、
2週間に一度しか入浴せず臭うし、言わば鼻つまみ者なのです。
◆ ◆ ◆
そんな空地に黄色いルノーに乗って一人の女性が通い始めます。
図書館員のエステールです。
家族も近寄り難いアンジェリーヌばあさんに話し、
毎週水曜日の朝、子どもたちに本の読み聞かせを始めます。
最初は警戒していた子供たちも本に夢中になり、
母親たちも本を読み聞かせるエステールと会話するようになり、
ジプシー一家の暮らしに徐々に変化が訪れますます。
◆ ◆ ◆
ジプシーたちは、行く先々で白い目で見られ、差別されてきました。
差別されることに慣れてしまい、
当たり前に暮らすことを諦めています。
そんな暮らしの中にも、新たな命の誕生や死が訪れます。
この小説の根底には諦めの恐ろしさが描かれています。
ほんとうに悲惨です。
同時に、諦めないことの難しさと素晴らしさが描かれています。
エステールは決してジプシー一家に無理強いせず、
地道に本の素晴らしさを伝えようと試み続けます。
諦めきっているジプシーと諦めないエステールの根競べです。
◆ ◆ ◆
頑固で生きてきた自信に満ち、血の結びつきを尊ぶ
アンジェリーヌばあさんの心の内の描写に圧倒されます。
諦めに裏打ちされていた確固たる自信が、
期待の芽生えとともに微妙に揺らぎ始める変化から 目が離せませんでした。
エステールのような目と心を持っているのだろうか。
自分に問わずにはいられません。
[end]
*** 読書満腹メーター ***
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