日常の生活や人の内面と自然・地球・宇宙との間を行き来する、
この作家の作品が好きです。
大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる
外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけることだ。
このデビュー作の最初のページにもこんな一文が登場します。
◆ ◆ ◆
スティル・ライフ / 池澤夏樹 (中公文庫) 514円 Amazon、324円 Kindle版 1988年刊、1991年文庫化 |
「ぼく」はバイト先の染色工場で「ぼく」のヘマをきっかけに
「佐々井」という男と時おり話すようになります。
佐々井は静かなバーでグラスを眺めて宇宙や星のことを考える
どこかつかみどころのない男です。
ある日、染色工場を辞めた佐々井が、
「ぼく」に頼みがあるといってきました。
バイトを辞めて彼の頼みを請けた「ぼく」は
星や宇宙などできるだけ遠くをみようとする佐々井に
思いがけず実務的な一面を発見します。
◆ ◆ ◆
私自身はそういう感覚が持てずにいるせいか、
自分が宇宙や自然の一部として一体化する実感を持つ佐々井に、
そして徐々にその感覚を自分のものにしていく「ぼく」に、
憧れにも似た微妙な距離感をもった親近感を感じます。
佐々井が撮った写真や雑誌の切り抜きから作ったスライドを
二人が見入るシーンでは、
「ぼく」が徐々に自然の一部と実感していく様子が伝わります。
◆ ◆ ◆
たぶん、自然に対して謙虚にならないと
こうした感覚は湧いてこないのかもしれません。
そういえば、この小説はこんな一文で始まっていましたっけ。
この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。
世界はきみを入れる容器ではない。
[end]
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