こんな兵士も ~ 「その日東京駅五時二十五分発」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

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もうすぐ8月です。
8月の声を聞くと、TVでは戦争にまつわる
ドラマやドキュメンタリー特番が組まれます。

海へ、島へ、空へ、戦地に赴いた人たち。
残された家族たち。
日本で戦禍に見舞われた人達・・・・・・


◆      ◆        ◆

あの時代、こんな若者も確かにいたんですね。
作者は実話にインスパイアされて書いたそうです。

 

その日東京駅五時二十五分発 (新潮文庫) その日東京駅五時二十五分発 / 西川 美和 (新潮文庫)
432円 Amazon, 432円Kindle版
2012年刊、2015年文庫化

 



昭和20年、東京駅前で汽車の出発まで時間をつぶす二人の若者。
軍服を着ていますが、階級章を付けてなければ、
身分を証明する軍隊手帳も携えていません。

そんな二人の東京駅に着くまでの経緯と、
東京駅から汽車に乗ってからの日々を「ぼく」が回想します。

その日とは8月15日、終戦記念日となった日です。


◆      ◆        ◆

「ぼく」と益岡はすでに何日も前から敗戦を知っていました。
噂ではなく、確実な情報として。
とは言え、それを口外することはできません。
8月15日がどういう日になるかということも知りません。

それでも、「ぼく」と益岡は
世間よりほんの何日かだけ先に戦後を歩みはじめています。
そして「ぼく」の向かう先は広島です。


◆      ◆        ◆

遅れて招集され、国内に配置された「ぼく」には
とこか戦いそこねている感覚が漂います。
日本の勝利を願いながらも、状況を冷静に受けとめています。

天皇陛下が国民に敗戦を知らせた玉音放送より前に敗戦を知り、
戦争が終わりに戸惑いながらも、
戦後に向かう気持ちが芽生え始めています。

大阪で奉公に出ていた益岡は「ぼく」よりクールに
強く戦後に向かって歩み初めています。


◆      ◆        ◆

どこか周りと距離をおいて世の中と自分を俯瞰している二人。

涙を誘うこともなく、戦争から得られる教訓も見えない、
TVの特番の題材になりそうもない若者です。

教科書にどのように書かれても伝わらない、
誰かが語らなければ残されない、
一人ひとりの戦争があったのですね。



[end]


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