どうやら、
ひとの思っていること、考えていることがわからずに困るより、
わかってしまう方が悩みが多そうです。
ひとの考えていることがわかる人。
そんなことがバレたら、周りから特別視される毎日が続き、
しかも、そんな人たちの考えていることがまたわかってしまいます。
もし、そんな能力をもっていたら、隠し通すしかありません。
☆☆☆ ◆
家族八景 / 筒井 康隆 (新潮文庫)
¥562 Amazon.co.jp / ¥475 Kindle版
(1972年刊、1975年文庫化)
火田七瀬は意識すれば人の心を読むことができます。
18歳になる今日まで、それを人に話したことがありません。
つきあいが長くなると、その能力に気づかれるリスクがあるので、
家政婦になり次々と働く先を変えています。
瑣末な日常のことにだけに関心をもつ妻と妻に関心のない夫
☆☆自分たちた不潔である意識がなく異臭の中で暮らす一家
命令口調だけが会話だが、行動的に人生を謳歌する妻
☆☆定年後自失した父とそこに寄生する息子夫婦
家の体面を重んじる妻と教え子と付き合っている学者の夫
☆☆互いに隣の夫婦の相手を好きになった二組の夫婦
有名画家を父にもった日曜画家の夫と夫の才能に不満な妻
☆☆母の死に悲嘆に暮れる27歳の夫とマザコン夫に悩む妻
いずれも、家族間に秘密や不満をかかえた家族です。
☆☆☆ ◆
とはいえ、
七瀬は秘密や不満を暴いたり、事件の犯人を明らかにしません。
これでもか、というほど描かれているのは家族一人ひとりの心理、
そして、それを知った七瀬の心理と行動です。
ここでは、家族それぞれの心の醜さを、
ユーモアと皮肉を混ぜて晒しています。
家庭の特色はそんな家族の心の集合体です。
☆☆☆ ◆
七瀬の心を読めてしまう故の悩み、身の安全を図る心理が、
特別な人の心の描写として、独自の創造を展開しています。
☆☆☆ ◆
読んでいて、
七瀬以外の登場人物に不快感や怒りなど負の感情を抱くのに、
時おり皮肉でニヤリと口角をあげているうちに、
各篇を読み終えると、醜さを持つ者の哀しさを感じていました。
そして家々を転々とする七瀬にも。
作者の筆の力のなせる技です。
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