珠子、美子、茉莉 ~ 「世界の果てのこどもたち」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。



作家が心底書きたかった小説は、
読んでいるとその気持ちが伝わってくるものですね。

☆☆☆       


世界の果てのこどもたち / 中脇 初枝 (講談社)
 
¥1,728 Amazon.co.jp / ¥1,404 Kindle版
(2015年刊)

第2次大戦中の3人の女の子の目から戦争を描いています。

高知の貧しい村から満州(中国東北部)へ家族と移った珠子。
朝鮮半島で日本の教育を強いられて育った朝鮮民族の美子(ミジヤ)
横浜の貿易商の娘として恵まれた環境にある茉莉。

珠子と美子が住む開拓団の村を、茉莉が父親とともに訪れ、
3人はほんの何日か満州で時を過ごします。

☆☆☆       


やがて戦争は激化し、敗戦へ。

満州には終戦直前にソ連が侵攻し、日本人は逃げまどいます。
日本に協力的だった朝鮮の人たちは身の危険を感じ逃げます。
横浜は空襲で峡の原に。住民は何もかも失います。

敗戦を機に、3人の人生はさらに思わぬ方向に翻弄(ほんろう)されます。

酷い目に遭い、凄惨な場面を目にし、食べるものにも事欠き、
それでも
珠子、美子、茉莉の3人もそれぞれ生きのびるために必死です。

☆☆☆       


作者の筆は、珠子、美子、茉莉の3人が70代まで追います。

生き延びたにしても、
生きるために、きれいごとでは済まない暮らしがありました。

生存をかけた日々の中で、人の醜い面がさらけだされます。
生存をかけた日々の中でも、失われない優しさがありました。

いつまでも心に傷あとも残っています。
脳裏に焼き付いている場面、肌に残る感触・・・・・・。
3人に、そして3人だけでなく。

☆☆☆       

戦後、復興してから生まれ育ち、
周りに戦地に赴いた人もいなかった私からすれば、
戦争は主に映像と文字で伝えられたものです。

同じ文字で伝えられる戦争も、
子どもの視線から描かれると本能的で自然な受けとめ方です。
大義もなければ、正義を問うこともありません。

この小説であらためて感じました。
戦場以外から見える戦争も、戦争です。

力なくして平和は保ちつづけられません。
力なくして命は守れません。
それでも力以外のもので、人は生きる支えを得ています。

珠子、美子、茉莉の3人が支えにしたものを
この小説を読んで確かめてみては?


[end]


*** 読書満腹メーター ***
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読みごたえレベル  E■■■■□F


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