この作家でなければ書けない作品と出会いました。
本好きには心躍りする出会いです。
モナドの領域 / 筒井 康隆 (新潮社)
¥1,512 Amazon.co.jp
(2015年刊)
河川敷で近くの美大生が女性の片腕を発見しました。
その現場で警察が検証している最中に、
今度は現場近くの公園で片足が発見されたとの報が入ります。
あるベーカリーで片腕の形をしたバゲットが一つだけ作られ、
それが新聞記事になったことで評判を呼び、ヒット作に。
実はこのバゲット、バイトの美大生が作ったもの。
しかも、あの事件の片腕にそっくりとの噂、
☆☆☆ ◆
こんな出だしで、事件の謎は解かれますが、
小説に推理モノのような展開を期待すると裏切られます。
なにしろこれは「神」を描いた小説ですから。
ある中年男が公園に現れ、初対面の相手をフルネームで呼び、
個人の細々としたことを次々と言いあて、
すぐ目の前の未来に起きることを予言しました。
薄気味悪がられながらも口コミで評判になり、
彼を「神」扱いする人も混じって公園には人が集まるように。
自分の都合のいいように神を利用しようする人たちが増え、
これをマスコミが取り上げ、事件化の様相を呈してきました。
場は、公園から法廷へ、やがてTVの公開討論へと変わり、
自らを"GOD"と称する男の言葉が、多くの人の耳目を集めます。
☆☆☆ ◆
"GOD"は、公園での集まりをかわきりに、裁判、TVの生放送へと
より多くの人の目に晒される場に立ちます。
裁判所では検事・裁判官・弁護士と、
TVの生公開討論で様々な分野の一人者と、
議論を高度なレベルへとシフトしていきます。
☆☆☆ ◆
☆☆神というのはお前さんたちが勝手に作って
☆☆勝手に想像しているだけだからね。
”GOD"を自称する男は、自分は神ではなく、
それに近く、それ以上の存在といいます。
裁判では、彼が"GOD"か否かを裁くわけにはいきません。
単なる暴行傷害の責任能力の有無が争われます。
そんな場で"GOD"は説きます。
罪とは? 罰とは? 宇宙の起源、時間・空間の概念、
悟性と知性と言葉の関係 etc.
哲学上の神や神のようなものの位置づけをおさらいされます。
TVの生放送討論会では、出演者から様々な問いが出されます。
"GOD"が存在していながら戦争や災害に人はなぜ苦しむのか。
☆"GOD"と他の神々との違いは何か。
☆☆"GOD"を愛することはできるのか、愛したらどうなるのか。
どうやら"GOD"は全知全能ではないようです。
☆☆☆ ◆
公園、裁判、TV討論会と場を移して議論を高度化しても、
高校生、主婦、検事、裁判官、ビジネスマン、研究者 etc.
みな自分の利益、自分の研究分野、自分の想像力の範囲で、
"GOD"をとらえようとする姿が滑稽です。
終盤に「わしが存在する理由はね」と始められるGODの告白は、
ほう、そうきましたか、と作者のガラポン感覚が見事です。
サスペンス風導入から"GOD"の登場への展開の不自然さ。
問いと答えの難解さによって感じる退屈。
こうした難点を感じつつも、
”GOD"の力の定義にブレがないので乗り越えられました。
この作品でなければ味わえない醍醐味にあふれています。
[end]
*** 読書満腹メーター ***
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