心の闇の調理法 ~ 「錆びる心」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

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使い古されたといってもいいほど、
多くの作家が繰り返しテーマにしてきた
心の闇という素材を描いた短篇を、

読んでいて、読み終えて、鮮やかな印象を持ったとしたら、
その作家の調理法は巧みだといえます。

☆☆☆       


錆びる心 / 桐野 夏生 (文春文庫)
 
¥583 Amazon.co.jp
(1997年刊、2000年文庫化)

読み手の背筋がぞくっとする終わり方をする6篇です。

手紙と劇を通じて妻のいる劇作家と愛を育む元教師の女性。
元恋人と再会し、再び画家への夢を抱く妻子ある書店主。
立派だった庭の荒れた姿を愛した男の借家住まいの夜の愉しみ。
31歳になって自分が酒癖が悪いことを知った男。
組に入り、その素質を期待される「仁義なき戦い」に憧れる若者。
十年間備えて夫の誕生日に家出し、家政婦で独り立ちする女。

☆☆☆       


6篇それぞれが異なる趣向で、叫び声をあげることはなくても、
ほんの一瞬間をおいてから恐怖が湧いてくる小説です。

狂気ともいえる、度を超えた妄想。
☆☆二度目のチャンスを与えながら、決意を試す冷徹な愛。
亡くした人を思い続ける気持ちが果たした復讐。
☆☆長い間、知らずにいた自分の中のもう一人の自分の素顔。
疑うことのなかった一途な志に潜む実感の欠如。
☆☆自分の存在を過大評価した思い込みの復讐の効果。

☆☆☆       

登場人物それそれの心の闇を、
現実味のある巧みな設定と、さりげない自然なストーリー展開で
色合いの異なる短篇に仕立てています。

各篇の終盤に用意されている意外性は、
それまでと同様の冷静な語り口を保ちながら提示され、
読み終えた後に、冷たい余韻の残る味わいを持っています。

特に表題作は、主人公の女性の心を、
本人、親友、勤め先、娘、夫の視線から多面的に見せ、
綿密な計算と行動と独りよがり思い込みとのアンバランスに、
残酷なほど明るく照らしだしています。


<目次>

虫卵の配列
羊歯の庭
ジェイソン
月下の楽園
ネオン
錆びる心


[end]


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