愛に気づくまで ~ 「ジャズ」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。



おとといのブログで紹介した本、「言葉は静かに踊る」で
紹介されていた本を早速買って読んでみました。
柳美里のこの文章に、強く惹かれたので。

彼らの愛は、黒人であることによって歪み、ひび割れている(略)
そのひび割れたピースを寄せ集めても、
決して人種的な問題には行き着かないだろう。


☆☆☆       


50代の男が付き合っていた18歳の少女を射殺し、
男の妻が少女の葬式に出向き少女の顔に切りつけようとした。

ショッキングな事件が、最初の1ページで回想されています。

ジャズ  / トニ モリスン (ハヤカワepi文庫)
 ¥929 Amazon.co.jp
(1994年刊、2010年文庫化)

少女の遺体を傷つけようとした女ヴァイオレットは、
殺された少女ドーカスのことを調べ始めます。
夫ジョーがドーカスを、なぜ、どう愛したのか知ろうとして。

☆☆☆       

舞台は1926年のN.Y.のシティ(ハーレム)。
ジョー、ヴァイオレット夫妻も、死んだドーカスも黒人です。

ページをめくるにつれ、現在と過去を行きつ戻りつしながら、
3人それぞれの生い立ちが明らかになっていきます。
大切なものを失い、喪失の穴埋めを求める姿がありました。

事件後、関係者の話を聴くにしたがい、
ヴァイオレットのジョーに対する心の在り方が揺れます。
そしてジョーにも。
さらに終盤に、ドーカスの死と愛の意外な側面が・・・・・。

☆☆☆       

少女を殺したジョーは、事件後も警察に追われません。
この頃、警察は黒人同士の殺人など追うつもりなどないのです。
(アメリカで黒人の人権=公民権が認められたのは1964年)

一人ひとりの過去の個人的なできごとを読むうちに、
当時の人種差別の凄惨な社会が浮かび上がってきます。

☆☆☆       

ジョーは化粧品のセールスが、
ヴァイオレットは無資格の美容師。
もちろん客は黒人です。

故郷からN,Y,に出て、悲惨な経歴を背景に、
別の自分になろうとしていたジョーとヴァイオレットを
象徴するような職業です。

美くなろうとする客たちの明るさとは裏腹に、
差別される側が、その外見的な特徴を薄めようとする
哀しさを感じてしまいました。

☆☆☆       

ここまで書いて、この小説の大切なことをまだ欠けています。
黒人の人種差別に軸を置いた小説のように見えてしまいます。

そして、読み終えると、冒頭に紹介した柳美里の言葉の意味が
しっくりと心に馴染みます。

差別されている側の諦めや哀しい憧れが多く登場しながら、
たくましく生きる躍動感と明るさがあります。

ジョーとヴァイオレットの50代の夫婦の愛と、
ドーカスという18歳の少女の愛という、
個人の愛が描かれた小説であることがはっきり感じとれます。


[end]


ペタしてね


*** 読書満腹メーター ***
お気にいりレベル   E■■■■□F
読みごたえレベル  E■■■■□F


*****************************
作家別本の紹介の目次なら
日本人著者はこちら

海外の著者はこちら
*****************************


<----左側の
①「ライブラリーを見る」をクリックし、
②ライブラリの各本の"LINK"をクリックすると
 その本を紹介した記事にとびます。