おとといのブログで紹介した本、「言葉は静かに踊る」で
紹介されていた本を早速買って読んでみました。
柳美里のこの文章に、強く惹かれたので。
彼らの愛は、黒人であることによって歪み、ひび割れている(略)
そのひび割れたピースを寄せ集めても、
決して人種的な問題には行き着かないだろう。
☆☆☆ ◆
50代の男が付き合っていた18歳の少女を射殺し、
男の妻が少女の葬式に出向き少女の顔に切りつけようとした。
ショッキングな事件が、最初の1ページで回想されています。
- ジャズ / トニ モリスン (ハヤカワepi文庫)
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少女の遺体を傷つけようとした女ヴァイオレットは、
殺された少女ドーカスのことを調べ始めます。
夫ジョーがドーカスを、なぜ、どう愛したのか知ろうとして。
☆☆☆ ◆
舞台は1926年のN.Y.のシティ(ハーレム)。
ジョー、ヴァイオレット夫妻も、死んだドーカスも黒人です。
ページをめくるにつれ、現在と過去を行きつ戻りつしながら、
3人それぞれの生い立ちが明らかになっていきます。
大切なものを失い、喪失の穴埋めを求める姿がありました。
事件後、関係者の話を聴くにしたがい、
ヴァイオレットのジョーに対する心の在り方が揺れます。
そしてジョーにも。
さらに終盤に、ドーカスの死と愛の意外な側面が・・・・・。
☆☆☆ ◆
少女を殺したジョーは、事件後も警察に追われません。
この頃、警察は黒人同士の殺人など追うつもりなどないのです。
(アメリカで黒人の人権=公民権が認められたのは1964年)
一人ひとりの過去の個人的なできごとを読むうちに、
当時の人種差別の凄惨な社会が浮かび上がってきます。
☆☆☆ ◆
ジョーは化粧品のセールスが、
ヴァイオレットは無資格の美容師。
もちろん客は黒人です。
故郷からN,Y,に出て、悲惨な経歴を背景に、
別の自分になろうとしていたジョーとヴァイオレットを
象徴するような職業です。
美くなろうとする客たちの明るさとは裏腹に、
差別される側が、その外見的な特徴を薄めようとする
哀しさを感じてしまいました。
☆☆☆ ◆
ここまで書いて、この小説の大切なことをまだ欠けています。
黒人の人種差別に軸を置いた小説のように見えてしまいます。
そして、読み終えると、冒頭に紹介した柳美里の言葉の意味が
しっくりと心に馴染みます。
差別されている側の諦めや哀しい憧れが多く登場しながら、
たくましく生きる躍動感と明るさがあります。
ジョーとヴァイオレットの50代の夫婦の愛と、
ドーカスという18歳の少女の愛という、
個人の愛が描かれた小説であることがはっきり感じとれます。
[end]
*** 読書満腹メーター ***
お気にいりレベル E■■■■□F
読みごたえレベル E■■■■□F
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