既に読者も経験したことがあったり、
これから遭遇する可能性があるかもしれないと思えたり、
あるいは知り合いに似た体験をしていそうな、
そんなピンチが、12人の主人公たちの前に立ちはだかります。
さしづめ現代のピンチ・パターン12選といったところです。
☆☆☆ ◆
そのピンチが自業自得の結果であろうと、
もう少し注意していれば回避できたものであろうと、
本人にはどうしようもない運命のいたずらであろうと、
ピンチに直面してしまったら、そんなことはどうでもいいことです。
時計を戻せやしませんから、
ピンチからどうやって脱するか、もがくしかありません。
- 再生 / 石田 衣良 (角川文庫)
¥605 Amazon.co.jp / ¥292 Kindle版
(2009年刊、2012年文庫化)
☆☆日曜深夜に同棲相手に別れを告げられた29歳の女性。
正月明け出勤する気が起きなくなった若い会社員。
☆☆若くして夫が痴呆となったことに気づいた妻。
職を失った息子を迎えた途端、リストラに直面する父親 etc.
ね、過去を振り返ってばかりいられない状況でしょ。
☆☆☆ ◆
でも「はい、これでよし」なんて簡単に解決しません。
現実にピンチからなかなか脱することはできないし、
いくら短篇だって簡単に解決させちゃあ小説になりません。
かといって、解決せず苦しいままの物語を
12篇も読まされたら読者はたまりません。
解決しないまでも、ずるずると悪化させない
「転換点」のネタの豊かさこそこの小説の味わいです。
☆☆☆ ◆
いい方向に向かいそうな兆しとか、
ピンチを脱しないまでも、それなりにしのげそうな気配とか、
ピンチを共有して格闘していけそうなどんでん返しとか・・・・。
ご都合主義に陥らない、理にかなった偶然もいい塩梅です。
☆☆☆ ◆
なかでも、私が最も気に入ったのは「銀のデート」
五十過ぎで痴呆が出る夫が若い女とデートと称して外出。
夫の心配と嫉妬で揺れる妻が気づいた対応が天晴れでした。
しかも夫の痴呆による勘違いも素敵で、切なく、温かいんです。
結末を言いたくて、ウズウズしてしまいます。
作者のストーリー・テラーとしての品のよさが光ります。
[end]
*** 読書満腹メーター ***
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