つながる兆し ~ 「ワーカーズ・ダイジェスト」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。



まじめだけど、疲れ気味の女性のひとり暮らしのワンルーム?

ノートPCと追加したモニター、デスクの脇には整理された資料。
脇の卓袱台には食べかけの菓子、ペットボトル、急須と湯呑。
むき出しに掛けられた服、カーペットに横たわる女性の腰から足。

文庫本の表紙のイラストです。主人公の部屋でしょう。

☆☆☆       


ワーカーズ・ダイジェスト / 津村 記久子 (集英社文庫)
 
¥454 Amazon.co.jp
(2011年刊、2014年文庫化)

「ワーカーズ・ダイジェスト」、「オノウエさんの不在」
の2篇が収められています。

以下、表題作の紹介です。

佐藤奈加子は、大阪のデザイン事務所に勤め、
副業でコラムや店紹介を書くライターをしています。
奈加子、職場の女性社員との会話で何かとに絡まれています。

佐藤重信は、ナカセガワ工務店に勤めています。
大阪で採用された後、欠員が出た東京に移りました。

☆☆☆       

奈加子の事務所は毎年重信の会社から仕事を請けています。
両社とも当初打合せを予定した人の都合が悪くなり、
ふたりがピンチヒッターとして打合せに。

偶然の出会いも、特段の印象も持たないまま打合せを終えます。
互いに知ったことといえば、二人ともピンチヒッターであること、
同じ姓、同じ32歳、同じ誕生日1月4日であることくらい。

打合せの後、昼食でカレー屋で偶然すぐ再会したものの、
その後二人は接点を持つどころか、ほとんど思い出すこともなく、
ともに仕事や人間関係に振り回されて、疲れを溜めていきます。

☆☆☆       


二人がそれぞれ徐々に疲れていく様子を、
エピソードを重ねて描かれていきます。
似たような光景を体験したと感じる読者も多そうです。

どこかで二人が再会し、恋に育ちそうな兆しを期待しながら
読み続けていても、なかなかそういう場面は訪れません。

奈加子の中でも、重信の中でも、
相手への思いが育まれることもありません。

☆☆☆       

いくつもの偶然に一致した共通点が、
細々と二人の記憶の中に互いをとどめていました。

もし相手が光り輝いて見えていたら、
記憶の中でも彼を/彼女を遠ざけていたかもしれません。

ラストシーンで、
恋に育つ確かな兆しまでは感じられない、
二人がふわりとつながりそうな場面。

現代、30代前半の世代、とひとくくりにすると、
個人差を無視したことになりますが、
時代と世代の空気を感じさせてくれました。

そっと心に触れてくる小説でした。


[end]


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