奥深い常識破り ~ 「さようなら、ギャングたち」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。



どうやらこれは何かとお騒がせな小説のようです。

実際に手にとってみて、
これまで、いかに無意識のうちに実生活上の常識を基盤とした
暗黙のお約束を頼りに小説を読んでいたか痛感させられました。

おそらくここであらすじを紹介したところで、
読んでいる方は戸惑うばかりでしょう。

まずは、主人公の「わたし」が暮らす時代の背景設定なんぞを
紹介するのがいい入口になるのではないかと。

☆☆☆       

さようなら、ギャングたち / 高橋 源一郎 (講談社文芸文庫)
 
¥1,512 Amazon.co.jp / ¥1,242 Kindle版
(1982年刊、1985年文庫化)

「わたし」の暮らすこの時代、人々は親のつけた名前を捨て、
自分で自分に名前をつけるています。

役所に届ければ、自分のつけた名と交換してくれます。
(手続きは妙に現実的かつ実務的です)

役所の裏に流れる川は、
捨てられた古い名前で水面が埋め尽くされています。

☆☆☆       


うあああぁぁぁ。

詩人の「わたし」は恋人に「中島みゆきソング・ブック」と名づけ、
彼女は「わたし」を「さよなら、ギャングたち」と名づけます。
(飼い猫は「ヘンリー4世」です)

「わたし」は詩の学校で教えています。
詩を作ることができない人々に。

ある日、有名な4人組のギャングが「わたし」の家に押し入り、
詩を教えろと迫ります。

☆☆☆       

まず、文章の断片が章になっていることに驚きました。

そうした文の外見ばかりか内容も最初は戸惑いながら読みました。

論理的にはかみ合わない「わたし」と彼女S・Bの出会いの会話。
☆☆
自らを折りたたみ解体する古い遊園地の観覧車の描写。
独房の広さから詩の学校の教室の広さを語る対比。
☆☆古代ギリシャ、ローマの詩人や哲学者の罵り合い。

地面から足の裏がほんの僅かに離れたような浮遊感があります。

そんな中で、登場人物たちが自分の存在意義を探し求める姿が
リアルに感じられてきました。
そして、徐々に明らかになってくる彼女S・Bの過去や生き様。
胸に迫る苦しさがあります。

☆☆☆       


最後のページまで読み終えてみると、

「わたし」にS・Bがつけた「さよなら、ギャングたち」という名前が、
S・Bに「わたし」がつけた「中島みゆきソング・ブック」という名前が、
名付けた方からみても、名付けられた本人からみても、
いかにふさわしものであったか、納得しました。

途中で読むのを止めようかと思うことまりました。
でも最後まで読んでほんとうによかったと思います。


P.S.
猫の名は、作者が競馬好きだったので
「ダービー伯」とよばれたが「ヘンリー4世」になったのかも。


<目次>

第一部 「中島みゆきソング・ブック」を求めて
第二部 詩の学校
第三部 さようなら、ギャングたち


[end]


*** 読書満腹メーター ***
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読みごたえレベル  E■■■■■F


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