どうやらこれは何かとお騒がせな小説のようです。
実際に手にとってみて、
これまで、いかに無意識のうちに実生活上の常識を基盤とした
暗黙のお約束を頼りに小説を読んでいたか痛感させられました。
おそらくここであらすじを紹介したところで、
読んでいる方は戸惑うばかりでしょう。
まずは、主人公の「わたし」が暮らす時代の背景設定なんぞを
紹介するのがいい入口になるのではないかと。
☆☆☆ ◆
- さようなら、ギャングたち / 高橋 源一郎 (講談社文芸文庫)
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「わたし」の暮らすこの時代、人々は親のつけた名前を捨て、
自分で自分に名前をつけるています。
役所に届ければ、自分のつけた名と交換してくれます。
(手続きは妙に現実的かつ実務的です)
役所の裏に流れる川は、
捨てられた古い名前で水面が埋め尽くされています。
☆☆☆ ◆
うあああぁぁぁ。
詩人の「わたし」は恋人に「中島みゆきソング・ブック」と名づけ、
彼女は「わたし」を「さよなら、ギャングたち」と名づけます。
(飼い猫は「ヘンリー4世」です)
「わたし」は詩の学校で教えています。
詩を作ることができない人々に。
ある日、有名な4人組のギャングが「わたし」の家に押し入り、
詩を教えろと迫ります。
☆☆☆ ◆
まず、文章の断片が章になっていることに驚きました。
そうした文の外見ばかりか内容も最初は戸惑いながら読みました。
論理的にはかみ合わない「わたし」と彼女S・Bの出会いの会話。
☆☆自らを折りたたみ解体する古い遊園地の観覧車の描写。
独房の広さから詩の学校の教室の広さを語る対比。
☆☆古代ギリシャ、ローマの詩人や哲学者の罵り合い。
地面から足の裏がほんの僅かに離れたような浮遊感があります。
そんな中で、登場人物たちが自分の存在意義を探し求める姿が
リアルに感じられてきました。
そして、徐々に明らかになってくる彼女S・Bの過去や生き様。
胸に迫る苦しさがあります。
☆☆☆ ◆
最後のページまで読み終えてみると、
「わたし」にS・Bがつけた「さよなら、ギャングたち」という名前が、
S・Bに「わたし」がつけた「中島みゆきソング・ブック」という名前が、
名付けた方からみても、名付けられた本人からみても、
いかにふさわしものであったか、納得しました。
途中で読むのを止めようかと思うことまりました。
でも最後まで読んでほんとうによかったと思います。
P.S.
猫の名は、作者が競馬好きだったので
「ダービー伯」とよばれたが「ヘンリー4世」になったのかも。
<目次>
第一部 「中島みゆきソング・ブック」を求めて
第二部 詩の学校
第三部 さようなら、ギャングたち
[end]
*** 読書満腹メーター ***
お気にいりレベル E■■■■□F
読みごたえレベル E■■■■■F
(ペタお返しできません。あしからず。)
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