武蔵野にひっそりとたたずむ古い家。
そう聞くと風情を感じます。
その家に母と息子二人で暮らしていれば、
いくぶん陰を思い浮かべます。
そこが「世間をはばかる忍びごとや逢瀬のための宿」であれば、
何やらいわくありげです。
☆☆☆ ◆
- 左近の桜 (角川文庫)/長野 まゆみ
¥605 Amazon.co.jp / ¥525 Kindle版
(2008年刊、2011年文庫化)
左近桜蔵、16歳。桜蔵と書いて「さくら」と読みます。
弟千菊(ちあき) 、母葉子(はこ) の三人暮らしです。
料理人と番頭がいるものの、桜蔵も時には家業を手伝います。
ただし、葉子が切り盛りする宿は男同士の逢瀬の場です。
もうそう聞いただけで、桜蔵の身を案じてしまいます。
☆☆☆ ◆
常連客の浜尾が左近で相手と待ち合わせると、
なぜか桜蔵の身に、本人からすれば災難がふりかかります。
桜蔵が、父、柾(まさき)に用を言いつかれば、
不思議なことに出くわします。
桜蔵にその気がなくても、怪しげな男たちと関わりができます。
☆☆☆ ◆
夢なのか、現実なのか、妄想なのか。
生きているとも、彼岸から来ているともつかない男たち。
桜蔵は、別に妻子と住む父に、客に、弟の担任に
ふりまわされてばかり。
父柾、客の浜尾はそんな様子を楽しんでいるかのようです。
母洋子は素知らぬふり。弟千菊は自分のことに夢中です。
☆☆☆ ◆
どこか古めかしく、柔らかな文体は、
世間離れしたこの宿の空気そのものです。
桜蔵の家族は、父親を含めて樹木に因んだ名前ばかり。
それ以外は、常連客浜尾、弟の担任羽ノ浦、と海に因んだ名前。
樹木は潤いを求めているようです。
でも、海の水はしょっぱいので、樹木の潤いになるんでしょうか。
<目次>
第1章 花も嵐も春のうち
第2章 天神さまの云うとおり
第3章 六月一日朝
第4章 骨箱
第5章 瓜喰めば
第6章 雲母蟲
第7章 秋草の譜
第8章 空舟
第9章 一夜半
第10章 件の男
第11章 うかれ猫
第12章 海市
[end]
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