ふたつの水辺 ~ 「八月の日曜日」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

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2014年のノーベル文学賞を手にしたフランスの作家
パトリック・モディアノが1989年に出したこの小説は、
2年後に和訳されながら、訳から10年を経てようやく刊行されました。

ノーベル賞を受賞までいまひとつ人気が盛り上がらなかったから?

もっと知られて、人気が出てもよさそうな作家のひとりです。

☆☆☆       

八月の日曜日 / パトリック モディアノ 作、堀江敏幸 訳(水声社)
 
¥2,376 Amazon.co.jp
(原作1989年刊、和訳2003年刊)

語り手のカメラマン「私」が7年前ぶりに訪れた、
南フランスの地中海を臨むリゾート地ニースの路上で
ヴィルクールという男と再会するシーンから、
この小説は始まります。

互いに会いたくない相手だったようです。
どちらにもどこか敗北感が漂う書き出しです。

☆☆☆       

ニースは7年前「私」がシルヴィアという女性と逃避行した地です。

後から駅に降り立ったシルヴィアの荷物といえば、
大きな皮のバッグと首の「南十字星」という名の巨大ダイヤモンド。
追手の目を意識した不安な日々の始まりです。

☆☆☆       


時間軸と異なる順序で回想しつつ、
7年前の事件までの経緯が明らかになります。

安堵と微かな軋(きし)みを感じつつニースで出逢ったニール夫妻。
意外な親近感を示す退官間近の在ニースのアメリカ領事。

セーヌ河と合流するマルヌ川河岸のラ・ヴァレンヌで知り合った
ヴィルクールの母親。

☆☆☆       

同じ水辺の町でありながら、
国際的リゾートのニースと
パリから郊外にある小さな河岸をもつラ・ヴァレンヌは
各々のシーンの舞台に逆説的でうってつけです。
(詳しく書くとネタバレするので書くのはここまでです。)

シルヴィアと「南十字星」を巡る
不安、閉塞感、被放置感、敗北感を漂わせた
「私」の語る回想に惹きこまれました。

☆☆☆       


シルヴィアは今どこにいるのか。
今「南十字星」は誰の手にあるのか。

そして何よりも、
7年ぶりにニースを訪れた語り手の男「私」が、
まだ疼きを胸にしながらも、
被放置感と敗北とどう折り合いをつけたのか。

200ページほどに語られる謎と経緯は、
時間を縦横無尽に訪れながらも詰め込まれておらず、
各シーンの余韻に浸りながら想像を巡らせることができました。


[end]


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