固着への期待 ~ 「あとかた」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。



いま、この時間が止まればいいのに。
こんな幸せがずっと続けばいいのに。

そんな思いをもつことがあります。

それは、時間が流れ、人は体験を通じて変わり、
その望ましい状態が固着しないことを知っているからです。

         


愛情を注いだ人に対する自分の気持ちに、
愛している人の自分に対する気持ちに、
永続を期待するのは過酷です。

あとかた / 千早 茜 (新潮社) [2014年]
 ¥1,512 Amazon.co.jp

彼とは別の男との交際で埋火を身に灯した若い女性。
  接点の少なかった上司の自殺から家庭を見返る男。
子供を預け束の間を若い男のもとにせっせと通う人妻。
  元同級生の部屋で居候する背中に酷い傷跡をもつ20歳の女性。
その女性を受け入れている有名大学の男子学生。
  災害救助の医師を彼を愛し、自分の生き方が後ろめたい女性。

         

人妻の結婚指輪や、若い女性の傷は、
目に見える形で現状を固定化しようとする企ての証しでした。

現在を安定させることに力にならず、
過去の試みの形跡にすぎません。

勤め先のビルの屋上から飛び降り自殺した男が、
屋上に残したと噂されている手形だけが固定化されて、
私の瞼の裏にくっきりと形を残しました。

生前は影の薄かった、転勤してきた副部長の男が、
自死後、遺された周りの人たちの心に影を濃くしていきます。

         

登場人物の心に秘めたそんな気持ちが、
思わずぽろりと漏らされたり、
束の間の情事で紛らわせたりされる相手が、
正体が定かではない匿名性の高い人です。

本音を明かす相手は、近い人より、距離のある人の方が
漏らす本人の安全を保てると思うのでしょう。

         


固着を求めない登場人物たちが
明確に焦点を結ぶことができない将来は、
自分を傷つけながら描かれ、
淡く、儚げで、どこか痛々しい期待です。


<目次>

ほむら
てがた
ゆびわ
やけど
うろこ
ねいろ

[end]


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