それなりに長く人間をやっていると、
他人事とやりすごすことができることが減っていきます。
すでに通り抜けてきた年代・世代が積み重なり、
他の人の体験を自分の体験や時代と
重ねたり、比べたりできる場面が多くなります。
自分がまだ経験していないことを見聞きすれば、
若い頃には
あまりにも遠い将来として実感するのが難しかったことも、
この齢ともなると、
射程距離内として自分の姿を重ねる場面が増えました。
◆
著者は多才な人です。
世界的にも高名な免疫学者、エッセイを書き、能も作ります。
- 寡黙なる巨人 / 多田 富雄 (集英社文庫)
¥617 Amazon.co.jp
そんな筆者が、ある日を境に身体が動かなくなり、
話をすることも、水や食物を飲み込むこともできなくなります。
その日から2年後には、ここにあるエッセイが書き始められ、
6年後この本が刊行されています。
闘病生活、医療問題のほか、交遊録、ワインの話、季節談 etc.
テーマは多岐にわたります。
しかも、この間に能の新作まで完成させています。
◆
日頃、何の気なしにしていることがこれほどあるのか。
このエッセイを読んで、
生きるということは、そして生きているということは、
こういうことなのか、と思い知らされました。
- 最悪の場合、両手足が動かなくなります。
そう言われたことがあります。
その時、両手足が動かない日々の暮らしの具体的な場面として
思い浮かべることができたのはほんのわずかでした。
この本の中には、それがふんだんに書かれていました。
しかも手足ばかりか、口から言葉を失いや嚥下できない生活。
著者は多才な人であっただけに、もどかしさは人一倍です。
◆
タイトルにある「巨人」とは誰のことか。
そしてその「巨人」はなぜ「寡黙」なのか。
読み進めば、著者と巨人との出会いを知ることができます。
◆
著者が自分の姿を鏡で見る場面があります。
その姿に大きな衝撃をうけます。でもそれを直視します。
現実を直視するには、それが厳しい状況であるほど、
勇気とも言えるエネルギーを必要とします。辛い作業です。
そして、それが再出発のスタートラインです。
[end]
*** 読書満腹メーター ***
お気にいりレベル E■■■□□F
読みごたえレベル E■■■□□F
(ペタお返しできません。あしからず。)
*****************************
作家別本の紹介の目次なら
日本人著者はこちら
海外の著者はこちら
*****************************
<----左側の
①「ライブラリーを見る」をクリックし、
②ライブラリの各本の"LINK"をクリックすると
その本を紹介した記事にとびます。