再出発のスタートライン ~ 「寡黙なる巨人」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

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それなりに長く人間をやっていると、
他人事とやりすごすことができることが減っていきます。

すでに通り抜けてきた年代・世代が積み重なり、
他の人の体験を自分の体験や時代と
重ねたり、比べたりできる場面が多くなります。

自分がまだ経験していないことを見聞きすれば、
若い頃には
あまりにも遠い将来として実感するのが難しかったことも、
この齢ともなると、
射程距離内として自分の姿を重ねる場面が増えました。

         

著者は多才な人です。
世界的にも高名な免疫学者、エッセイを書き、能も作ります。

寡黙なる巨人 / 多田 富雄 (集英社文庫)
 ¥617 Amazon.co.jp

そんな筆者が、ある日を境に身体が動かなくなり、
話をすることも、水や食物を飲み込むこともできなくなります。

その日から2年後には、ここにあるエッセイが書き始められ、
6年後この本が刊行されています。

闘病生活、医療問題のほか、交遊録、ワインの話、季節談 etc.
テーマは多岐にわたります。
しかも、この間に能の新作まで完成させています。

         


日頃、何の気なしにしていることがこれほどあるのか。

このエッセイを読んで、
生きるということは、そして生きているということは、
こういうことなのか、と思い知らされました。

  - 最悪の場合、両手足が動かなくなります。

そう言われたことがあります。
その時、両手足が動かない日々の暮らしの具体的な場面として
思い浮かべることができたのはほんのわずかでした。

この本の中には、それがふんだんに書かれていました。
しかも手足ばかりか、口から言葉を失いや嚥下できない生活。
著者は多才な人であっただけに、もどかしさは人一倍です。

         


タイトルにある「巨人」とは誰のことか。
そしてその「巨人」はなぜ「寡黙」なのか。

読み進めば、著者と巨人との出会いを知ることができます。

         


著者が自分の姿を鏡で見る場面があります。
その姿に大きな衝撃をうけます。でもそれを直視します。

現実を直視するには、それが厳しい状況であるほど、
勇気とも言えるエネルギーを必要とします。
辛い作業です。

そして、それが再出発のスタートラインです。


[end]


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