戸惑いからの脱出 ~ 「フラニーとズーイ」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。



高校を卒業して、(といっても卒業式はすっぽかしましたが)
とにかくめでたく上の学校に進学したものの、
最初の1年間は戸惑ってばかりいるうちに過ぎてしまいました。

大学では学び方がわからず、
上級生はとんでもなく思索的にみえ、
周りをみると遊び方も、ハメの外し方も鮮やかで、
バイト先では社会人の悪戦苦闘続きの毎日を目の当たりにし、

なんてあっけにとられているうちに、
気がつけば1年生を終えようとしていました。

      

この本をラストシーン読んであの頃のことを思いかえしました。
フラニーはまさにあの頃の私と同じ年頃です。

      


「ライ麦畑でつかまえて」の作者J.D.サリンジャーの
何度も邦訳されてきた作品を村上春樹が訳しています。

フラニーとズーイ / J.D.サリンジャー / 村上春樹訳 (新潮文庫)
 ¥662 Amazon.co.jp

「フラニー」と「ズーイ」の2篇で構成されていますが、
「フラニー」は「ズーイ」の序章といった位置づけです。

      

「フラニー」の舞台は1955年のニューヨーク。
フラニーは始まったばかりの大学生活にうんざりし、
ボーイフレンドに会いに泊りがけで出てきます。

フラニーと彼のレストランでの食事の場面で、
彼はSnobぶりを発揮し、フラニーは混乱の度合いが増します。

若々しさの特権でもある自意識の塊のふたりの会話は、
実に気の利いた都会的な文章で、ウンザリさせてくれました。

      


そして本編ともいえる「ズーイ」は、
実家に帰り傷心に萎れたフラニーをみて、
すぐ上の兄のズーイが立ち直らせようとします。

この「ズーイ」は
ふたりの兄で作家のバディが書いた小説という設定。
バディは、「ズーイ」で自分自身を三人称で登場させています。
ちょっと凝ったツクリです。

田舎でひっそりと暮らしながら小説を書くバディは、
なんだかサリンジャーを連想させます。

      

フラニーとズーイの母親に反抗して言い返す言葉は
なかなか気が利いています。

一方で、宗教感を持ち出すズーイとフラニーのケンカは、
序章の「フラニー」より垢抜けしない面倒な言い争いです。

前説のような解説、バディからの手紙、
  ズーイと面倒な母親との会話、
    フラニーに語りかけてからのスリリングふたりの駆け引き。

好みからいえば、決して好きな作品とは言えなかったものの、
手が込んでいながら鮮やかな展開と文章に脱帽です。

      


私が20歳の頃に
こうすればいいんじゃないか、と戸惑いの出口を、
ほんとうは出口のいと口を見つけた時には、
まるで人生の問題をすべて片づけたと勘違いするほど
ほっとした感覚がいまでも身体のなかで蠢いています。

この本のラストシーンで、ベッドで眠りにおちてゆくフラニーは
どんな気分だったのでしょう。


[end]


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