いくつかの小説を1冊に収めた本のタイトルには、
そのうちのひとつのタイトルを冠したものと、
収められた小説の共通テーマを冠したものがあります。
この作品はどちらかと言えば、
両方です。
収められたうちの1篇「砂を走る船」の映画版が「千年旅人」
同時に、「千年旅人」は収められた3篇の
共通テーマとしても成立しています。
◆
- 千年旅人 / 辻 仁成 (集英社文庫)
- ¥460 Amazon.co.jp
どこか死をまとっている男が登場する3篇の物語です。
自殺を考えていたり、大切な人を喪ったり、
余命が限られていたり。
個人の死への意識を出発点にしていながら、
個人の枠を超えた悠久の時の流れがイメージされます。
◆
「砂を走る船」は、作者がメガホンをとった映画
「千年旅人」の小説版です。
自分の死にふさわしい場所を探しもとめていた「彼」は、
日本海の海辺の民宿にたどりつきます。
その宿に住む足に障害をもつ「少女」は、
浜に立ち沖の船に手旗信号を送り続けています。
ふすまで仕切られた隣の部屋に泊まる「男」は、
浜に上がった難破船を自分の棺にすべく修理しています。
◆
ひとりを除き、人の名が固有名詞で表れない文章は、
ひとりひとりの隔たりを感じると同時に、
匿名の安心感を前提とした親近感を感じます。
たったひとり一度だけ固有名詞「洋子」を使った場面では、
その名を口にした人物が「洋子」という女にもつ
未練がぱっと広がります。
◆
映画監督と作者が同一人物の映画と小説。
両作品に、
映像(アナログ)と文字(デジタル)の扱いの違いを
探すのもちょっとした楽しみになるのかもしれません。
[end]
*** 読書満腹メーター ***
お気にいりレベル E■■□□□F
読みごたえレベル E■■■□□F
(ペタお返しできません。あしからず。)
*****************************
作家別本の紹介の目次なら
日本人著者はこちら
海外の著者はこちら
*****************************
<----左側の
①「ライブラリーを見る」をクリックし、
②ライブラリの各本の"LINK"をクリックすると
その本を紹介した記事にとびます。