個人の死と悠久の時間 ~ 「千年旅人」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。



いくつかの小説を1冊に収めた本のタイトルには、
そのうちのひとつのタイトルを冠したものと、
収められた小説の共通テーマを冠したものがあります。

この作品はどちらかと言えば、
両方です。

収められたうちの1篇「砂を走る船」の映画版が「千年旅人」
同時に、「千年旅人」は収められた3篇の
共通テーマとしても成立しています。

     


千年旅人 / 辻 仁成 (集英社文庫)
¥460 Amazon.co.jp

どこか死をまとっている男が登場する3篇の物語です。
自殺を考えていたり、大切な人を喪ったり、
余命が限られていたり。

個人の死への意識を出発点にしていながら、
個人の枠を超えた悠久の時の流れがイメージされます。

     

「砂を走る船」は、作者がメガホンをとった映画
「千年旅人」の小説版です。

自分の死にふさわしい場所を探しもとめていた「彼」は、
日本海の海辺の民宿にたどりつきます。

その宿に住む足に障害をもつ「少女」は、
浜に立ち沖の船に手旗信号を送り続けています。

ふすまで仕切られた隣の部屋に泊まる「男」は、
浜に上がった難破船を自分の棺にすべく修理しています。

     


ひとりを除き、人の名が固有名詞で表れない文章は、
ひとりひとりの隔たりを感じると同時に、
匿名の安心感を前提とした親近感を感じます。

たったひとり一度だけ固有名詞「洋子」を使った場面では、
その名を口にした人物が「洋子」という女にもつ
未練がぱっと広がります。

     


映画監督と作者が同一人物の映画と小説。
両作品に、
映像(アナログ)と文字(デジタル)の扱いの違いを
探すのもちょっとした楽しみになるのかもしれません。


[end]


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