現実の世界と距離をおいた仮想世界は、
単なる絵空事の世界で終わるか、あるいは
そこにある種の世界観がきちんと描かれているか、
によって深さや豊かさがまったく異なってきます。
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- 竜が最後に帰る場所 / 恒川 光太郎 (講談社文庫)
- ¥672
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現実の人間の世界との距離はまちまちですが、
読み手をするりと仮想世界に引き込んでくれる5篇です。
それぞれ趣向が異なっていて、
作者の抽斗(ひきだし)の豊かさがうかがわれます。
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○ある青年が、恨んだ相手を殺す精霊を入れた小瓶をもつ少女と
約束した待ち合わせ。
○嘘をついてDV男を呼び出す少年と、DV男を待つヒーロー、オルネラ。
○時折夜になると家の前を通る夜行についていく人々と、列に加わる男。
○ふつうの物の一部が実は他の物体の集合である疑似集合体。
それを見抜き、本来の形に戻すことができる青年と、集合体。
○人間の知らないところで起きている、竜の成長と、世代交代。
リアルな現実世界との距離感にバラエティがあります。
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私が気に入ったのは、パラレル・ワールドを描いた「夜業の冬」。
ふたつの世界が近いほど、双方の世界の間のズレの描き方が微妙で、
ふたつのリアルな世界の間を行き来する男の、夜行の続行の迷いもリアル。
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この作者が、もっとページ数を使ったら、どんな仮想世界を築くのか、
長編も読んでみたくなりました。
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*** 読書満腹メーター ***
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(ペタお返しできません。あしからず。)
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