クッキーやチョコレートの詰め合わせは、
オーソドックスなものは外せないものの、似たりよったりでは飽きるし、
変化さえつければそれでいいというものではありません。
ひとつひとつ独自の風味でありながら、
たとえその中に多少の好き嫌いがあったとして、
食べて終えていい小旅行をしたような気分になれば本物の詰め合わせです。
◆
村上春樹が選んで、訳して、1篇は自ら筆をとったラブ・ストーリー達です。
- 恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES / 村上 春樹編訳 (中央公論新社) [2013年]
- ¥1,890
- Amazon.co.jp
新郎新婦の代理人となって教会で式を挙げる若い男女、
下校時、友達のいないクラスメートの後をつける巨漢の中学生の少年、
安い部屋で、どうしようもない出来事に囲まれて暮らし始める若い男女、
貧しい詩人が体が不自由な少女に水泳を教えることか始まる物語 etc.
甘さ、苦味、時には渋みや毒のような刺激が、ひと粒ずつブレンドされた
チョコレートの詰め合わせのような短篇集です。
甘さばかりが際立つミルク・チョコだけ食べ続けたら飽きてしまうところを、
風味の変化で楽しませてくれます。
◆
さまざまなラブ・ストーリーである限り、全篇好きとは言えません。
私のお気に入りは、
「L.デバードとアリエット - 愛の物語」(ローレン・グロフ作)。
若い詩人で水泳が得意なL。
裕福な家庭で父親に育てられている、足が不自由なアリエット。
水泳を教えることから始まった、ふたりの若さに任せた愛。
その結果招いた困難を抱えたふたりのその後の人生。
それらが、終盤、一気に思わぬ広がりと深い情感を見せてくれます。
この1篇だけをとりだしたら、お気に入りレベルは"E■■■■■F"(Full)です。
◆
「モントリオールの恋人」も、ストレートな筋立ての最後に、
ちょっとしたドンデン返しを置いて大人の味に仕上げてくれています。
村上春樹が書いた「恋するザムザ」は、
カフカの「変身」の主人公ザムザの後日譚といった物語。
奇抜な設定のキワモノでありながら、切ないストーリーです。
◆
なかなかいい小旅行を体験させてもらいました。
選び抜かれたラブ・ストーリーを読んでしまうと、
この先、普通の短編恋愛小説に満足できなくなってしまいそうです。
[end]
*** 読書満腹メーター ***
お気にいりレベル E■■■■□F
読みごたえレベル E■■■■□F
(ペタお返しできません。あしからず。)
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