日々を何とか暮らしていけていても、今の暮らしに満足しきれないなんて
よく感じることです。
その充たされない気分が積りつもって、その体積を増していくと、
えいやっ、と思い切って大きな変化を求めたくなることがありります。
それが思いでとどまるか、行動に移すか。
よほど明確なビジョンやプランがない限り、
行動の向こうに満足が得られるかわかりません。
◆
- ポトスライムの舟 / 津村 記久子 (講談社文庫)
- ¥420
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収められているのは「ポトスライムの舟」、「十二月の窓辺」の2篇。
■ポトスライムの舟
29歳のナガセは工場で働く女性。実家で母と二人暮らしです。
工場の他、友人のカフェの手伝い、週末はパソコン教室講師、
家ではデータ入力のバイトをしています。
忙しいながらも、どこか虚しさが拭えない毎日。
そこに、工場に貼られたポスターに163万円で世界一周の広告。
ナガセの工場から受け取る年収と同額です。
1年後の世界一周をめざし、切り詰める生活、友人たちとのつきあい、
ナガセの実家に転がり込む友人母娘 etc. 何かとものいりです。
◆
■十二月の窓辺
ツガワの職場は印刷会社の支所。
何かと目の敵にする口うるさい係長、自分本位な先輩 etc.
中途入社して数か月経っても、なかなか職場に馴染めません。
職場近くに出没する通り魔、
ふと職場の窓から見たビルのオフィスでの暴力シーン。
ツガワの気持ちは、自分と職場の人たち、自分の職場と他の職場を
いったりきたりします。
◆
どちらの話も、主人公は口下手です。
自分の気持ちを、友人や親にもうまく伝えられません。
何とか暮らしていけていても、今の生活はどこか満たされていません。
そう、どこか、です。
特段、何かをしたいということもなく、
自分の気持ちの向かう先が定かになりません。
どこか空虚な気分が漂います。
◆
身近な人たちへの親近感と不快感、
相手の理屈に合わない言動への批判を感じても、言葉にはなりません。
世界一周の旅、他のオフィスは、
その向こうに何を求めるという訳でもありませんが、
彼女たち脱現状の行く先です。
◆
角の丸められた柔らかな三人称で、
主人公が等身大の自分自身を見つめている姿を描いています。
彼女たちは時折周りの人に問いかけ、自分の姿がどう映っているか確かめる、
そんな冷静さが備わっています。
世界一周の旅に憧れたところで、その最終到着地は出発点です。
今の生活がしっくりしない、との思いがあっても、
では、どの方向へ、何を求めるかがわからいないのです。
夢とか、希望とかなかなか見いだせない彼女たちが、
それでも変化を求めて行動を起こす姿は、不思議な勇気を与えてくれます。
[end]
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