目指せ脱現状、でも・・・・ ~ 「ポトスライムの舟」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。



日々を何とか暮らしていけていても、今の暮らしに満足しきれないなんて
よく感じることです。

その充たされない気分が積りつもって、その体積を増していくと、
えいやっ、と思い切って大きな変化を求めたくなることがありります。

それが思いでとどまるか、行動に移すか。
よほど明確なビジョンやプランがない限り、
行動の向こうに満足が得られるかわかりません。

     

ポトスライムの舟 / 津村 記久子 (講談社文庫)
¥420
Amazon.co.jp

収められているのは「ポトスライムの舟」、「十二月の窓辺」の2篇。

■ポトスライムの舟

29歳のナガセは工場で働く女性。実家で母と二人暮らしです。
工場の他、友人のカフェの手伝い、週末はパソコン教室講師、
家ではデータ入力のバイトをしています。

忙しいながらも、どこか虚しさが拭えない毎日。
そこに、工場に貼られたポスターに163万円で世界一周の広告。
ナガセの工場から受け取る年収と同額です。

1年後の世界一周をめざし、切り詰める生活、友人たちとのつきあい、
ナガセの実家に転がり込む友人母娘 etc. 何かとものいりです。

     

■十二月の窓辺

ツガワの職場は印刷会社の支所。
何かと目の敵にする口うるさい係長、自分本位な先輩 etc.
中途入社して数か月経っても、なかなか職場に馴染めません。

職場近くに出没する通り魔、
ふと職場の窓から見たビルのオフィスでの暴力シーン。
ツガワの気持ちは、自分と職場の人たち、自分の職場と他の職場を
いったりきたりします。

     

どちらの話も、主人公は口下手です。
自分の気持ちを、友人や親にもうまく伝えられません。

何とか暮らしていけていても、今の生活はどこか満たされていません。
そう、どこか、です。
特段、何かをしたいということもなく、
自分の気持ちの向かう先が定かになりません。

どこか空虚な気分が漂います。

     

身近な人たちへの親近感と不快感、
相手の理屈に合わない言動への批判を感じても、言葉にはなりません。

世界一周の旅、他のオフィスは、
その向こうに何を求めるという訳でもありませんが、
彼女たち脱現状の行く先です。

     

角の丸められた柔らかな三人称で、
主人公が等身大の自分自身を見つめている姿を描いています。
彼女たちは時折周りの人に問いかけ、自分の姿がどう映っているか確かめる、
そんな冷静さが備わっています。

世界一周の旅に憧れたところで、その最終到着地は出発点です。
今の生活がしっくりしない、との思いがあっても、
では、どの方向へ、何を求めるかがわからいないのです。

夢とか、希望とかなかなか見いだせない彼女たちが、
それでも変化を求めて行動を起こす姿は、不思議な勇気を与えてくれます。


[end]


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