活字を追うようになったのは20歳を超えた頃からです。
卒業論文を書くには、テーマについてあまりにも知識がなく、
あわててテーマに関係する文献を集めて読みました。
勤めるようになって、仕事をするには学生時代の知識では歯がたたず、
大学の教科書レベルの本やら、ビジネス書やら、専門雑誌やら、
必要に迫られて活字を追い続けました。
読書は時間の必要経費。
活字を追うことが苦行だった時代です。
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30代の半ばになるとビジネス書に物足りなさを感じ始めていた頃、
呑んでいる席で話題に出てきた初耳の名前をきっかけに、
佐藤一斎、安岡正篤、中沢新一といった、
古今の思想の著書を手とるようになりました。
同じ頃、思想とはまったく逆にある物理の入門書を好んで読んでいました。
高校時代18点=赤点をとって追試を受けたほど嫌いだった物理の本を、
娯楽としてすすんで手にとるなんて、気まぐれにしても不思議です。
残りの一生を模索していたのか、
心と脳の幅を広げたいとでも考えていたのか・・・・。
読書が趣味になった時期です。
◆
いまのようなペースで小説を読むようになったのは40代に入ってから。
年齢の割には小説の読書歴は浅いんです。
若い頃も小説をたまに読んでいましたが、
歳を重ねるとともに、小説から感じ取ることが増えて面白くなってきました。
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遍路みち / 津村 節子 (講談社文庫)
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5篇のうちはじめ2篇は、作者が70代に、夫を失う前に書かれたもの。
3篇は夫の死から3年のブランクを経て書かれたものです。
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作家である主人公が目を患う物語の「消えた時計」は、
こんな一文で締めくくられています。
七十歳をすぎて、いつまで書くつもりだろう、と拡大鏡のレンズを
拭きながらひとりで笑った。
夫を亡くした主人公の思いは「遍路みち」ではこんな文で綴られています。
育子を打ちのめしたのは、かれの死後その日記を開いたとき、
育子、
眼をさますといない。
というページが三日続いていたことだ。
夫の死後、知人の慰めの言葉にはこんな感性が顔を覗かせます。
育子は、安心したがっている人に対して、笑顔を作り続ける。
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読み手にある年齢になって感じ取れるものがあるとすれば、
書き手にもある年齢や経験を経て、初めて書けることがあるんだ、
と実感させられる一冊です。
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