鼓動が聞こえてくる ~ 「日輪の翼」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。

村上春樹の「色彩を持たない・・・・」の後、次は何を読もうかと考えていたら、
何ヶ月も置いたままになっていたこの本を手にとっていました。

土臭さ、体臭が匂うような人間臭さを期待して、表紙をめくりました。

     

日輪の翼 (河出文庫)/中上 健次
 ¥998 Amazon.co.jp
ツヨシは生まれてすぐに母に去られ、「路地」の女たちに育てられました。
やがて路地の住民たちも立ち退きが決まり、
いつか路地から出ていかねばなりません。

22歳の時、ツヨシは3人の若者とともに冷凍車のトレーラーを盗み、改造し、
7人のオバ(老婆)をトレーラーに乗せて和歌山の路地から連れ出し、
全国を転々とする旅が始まります。

     

若い頃、糧を得るために他の町に出ていたこともあるとはいえ、
長年路地で暮らしてきたオバたちには信仰心を発揮する未知の旅です。

布団、いくばくかの粗末な着替え、七輪、米などをトレーラーに積み込み、
そこで寝起きしては、行く先々でオカイサン(粥)を炊き、自炊します。
こうなるとオバの降り立つところは移動路地と化します。

オバたちは聖地を掃き清めようとほうきを持参しています。
そんな素朴な信仰心に、あけすけな揶揄や性の話がおりまざる老婆たちです。
そんな集団はどこへいっても目立ち、悶着もおきます。

     

ツヨシたち若者はといえば、オバたちの面倒をみながらも、
オバたちに冷やかされながら、訪れた土地で女性を求めてばかり。

それでもオバたちのツヨシを見る目は、
彼を他の若者たちとは異なるいい男としてとらえています。
嫉妬の元、憧れの対象になるほどです。

他の土地の人たちには受け入れられないオバたちの土着性。
いく先々で女にもてるツヨシの雄の魅力。(ときどき通用しなくなりますが)
下品ながらも、本能的に健康な様子は、
どこか儚さを帯びつつも眩しいほどたくましく映ります。

     

この本の登場人物たち、みんな生きています。
どっくん、どっくん、と力強く脈打つ鼓動が聞こえてきそうな作品です。


[end]


*** 読書満腹メーター ***
お気にいりレベル   E■■■■□F
読みごたえレベル  E■■■■□F

ペタしてね

*****************************
作家別本の紹介の目次なら
日本人著者はこちら
海外の著者はこちら
*****************************


<----左側の
①「ライブラリーを見る」をクリックし、
②ライブラリの各本の"LINK"をクリックすると
 その本を紹介した記事にとびます。