空っぽの正体 ~ 「銀河を、木の葉のボートで」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。

突然のできごとに出会うと驚きます。
それが想像もしたことがないことだと、すぐに反応することもできず、
漠然と呆然とした心持ちがずるずると続きます。

9・11と3・11は、
出来事そのものを直接体験したというほどではないのに、
私をそんな心持ちにさせました。

    

銀河を、木の葉のボートで / 野中 ともそ (双葉文庫)
 ¥630 Amazon.co.jp
「犬のうなじ」という名で発刊された短篇集がこの名で文庫化されました。

アメリカ人と結婚後帰国し、後離婚した夫婦と息子を観る妻の父親。
  9・11の追悼集会で拾った迷い犬を飼う女性。
世界の慰霊スポットを尋ね歩く幼なじみとその幼い娘を観る女性。

いずれも9・11を身近に感じた人が登場する、
N.Y.在住の作者ならではの物語たちです。

    

9・11にしても、3・11にしても、
突然襲ってきたほとんどの人が想定もしていなかった災いによって、
多くの命が奪われ、TVでも繰り返しその映像が流されました。

直接その災いに巻き込まれないですんだ人たちも、
身近な人を失ったり、その影響で職場から家に苦労して戻ったり。
そうでなくても、繰り返し映し出される映像で心は揺さぶられました。

    

あまりにもひとりの力ではどうにもならない出来事を経て、
なんとか日常生活を再開できても、
どこかに心に空っぽな部分ができたり、あることに気づいたりする登場人物たち。

その空っぽの部分は、空白、闇、靄(もや)、何やら堅い塊 etc.
といったさまざまな正体不明な印象を、読んでいて思い浮かべます。

そんな正体不明の何かと登場人物たちとの向き合い方も、
思いつめたり、なんとなくやりすごしたり、ふと気づいたりとさまざまです。

どこかふわりとしたこの作者の作風で、
出来事そのものの凄惨さを直接描くことなく、
とっさに反応できずに戸惑うひとりひとりの心を、じわりと映し出します。

    

「犬のうなじ」、「月の穴」、「銀河を、木の葉のボートで」の3篇は、
語り手自身の気持ち、語り手の周りの人たち、語り手の幼なじみと、
出来事に揺さぶられた人と語り手との異なる関係の視点から、
読み手の私を強くつなぎとめました。

名作でもないのに、受賞作になりそうもなくても、
ベストセラーや話題作とまでいかなくても、
自分の波長と響き合う作品に出逢う幸運も、読書の愉しみです。


[end]


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