複眼の渦 ~ 「氷山の南」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。

糧を得ることに四苦八苦する暮らしに浸っていると、
夢を追いや自分探しの疑似体験すらままなりません。

せめて小説の主人公の悩みぶり、活躍ぶりを、
主人公に寄り添って応援したくなります。
    

氷山の南 / 池澤 夏樹 (文藝春秋) [2012年]
 ¥2,205 Amazon.co.jp
日本人のJin Kaizawa、18歳。アイヌの血が1/2流れています。
先住民族を対象にした留学生制度を利用して、
ニュージーランドの高校に留学し、卒業しました。

オーストラリアの港でアポリジニ(先住民)の若者の絵葉書をみて、
Jinはシンディバード号という船に乗ることを決意します。
身分は密航者。
この船は氷山を曳いてオーストラリアに水をもたらす計画を
実行する目的を担っています。

Jinはすぐに見つけられてしまいますが、幸い船はすでに出港した後でした。
そこで彼は海に放りこまれるか、船に残すかという選択にさらされます。

    

氷山を曳航するために活かされる科学の粋。
  準備から、遂行、目的を果たすまでのプロジェクト・マネジメント。
膨大な費用を賄う資本の力。
  船乗り込んださまざまな国籍・人種、信仰。
船の運航スタッフ、研究者、医者、コック、氷山を選ぶ科学者などの職業。
  船を取り巻く南極の自然。

海に放り込まれることを免れたJinはこんな環境で、週給1ドルで働くことに。

    

Jinの与えられたふたつの役割は、どちらも多くの人と接する必要があり、
こんな限られたスペースに一定期間、
さまざまな視点をもつ暮らしや会話に、いやでも巻きこまれます。

のんびりした自分探しをテーマにした小説とはひと味ちがいます。
目まぐるしく働くことを求められ、
同時にいやでも異なる考えや視点を前にJinは考えずにはいられません。

    

まず食べていける目途を、
旅に出るにしてもその費用を賄う目途をたてなければ、
自分ひとりの力で自分探しは始まりません。

海に放りこむ代わりに、非現実的な環境にJinを放りこむことで、
短期間にさまざまな選択肢にさらし、彼に考えさせています。
作者は極めて現実的な暮らしをJinに迫っています。

    

現実的な暮らしを、
氷山曳航計画と密航という、一見、非現実的な世界に重ねて描き、
冒険という大きな枠組みで楽しませてくれます。
スパイス代わりに、恋愛やスピリチュアルな世界も。

なんて、くどくどと書いたものの、

何歳になっても、青年の冒険の匂いのする小説は、読んでいて心躍ります。


[end]


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