糧を得ることに四苦八苦する暮らしに浸っていると、
夢を追いや自分探しの疑似体験すらままなりません。
せめて小説の主人公の悩みぶり、活躍ぶりを、
主人公に寄り添って応援したくなります。
◆
- 氷山の南 / 池澤 夏樹 (文藝春秋) [2012年]
¥2,205 Amazon.co.jp
先住民族を対象にした留学生制度を利用して、
ニュージーランドの高校に留学し、卒業しました。
オーストラリアの港でアポリジニ(先住民)の若者の絵葉書をみて、
Jinはシンディバード号という船に乗ることを決意します。
身分は密航者。
この船は氷山を曳いてオーストラリアに水をもたらす計画を
実行する目的を担っています。
Jinはすぐに見つけられてしまいますが、幸い船はすでに出港した後でした。
そこで彼は海に放りこまれるか、船に残すかという選択にさらされます。
◆
氷山を曳航するために活かされる科学の粋。
準備から、遂行、目的を果たすまでのプロジェクト・マネジメント。
膨大な費用を賄う資本の力。
船乗り込んださまざまな国籍・人種、信仰。
船の運航スタッフ、研究者、医者、コック、氷山を選ぶ科学者などの職業。
船を取り巻く南極の自然。
海に放り込まれることを免れたJinはこんな環境で、週給1ドルで働くことに。
◆
Jinの与えられたふたつの役割は、どちらも多くの人と接する必要があり、
こんな限られたスペースに一定期間、
さまざまな視点をもつ暮らしや会話に、いやでも巻きこまれます。
のんびりした自分探しをテーマにした小説とはひと味ちがいます。
目まぐるしく働くことを求められ、
同時にいやでも異なる考えや視点を前にJinは考えずにはいられません。
◆
まず食べていける目途を、
旅に出るにしてもその費用を賄う目途をたてなければ、
自分ひとりの力で自分探しは始まりません。
海に放りこむ代わりに、非現実的な環境にJinを放りこむことで、
短期間にさまざまな選択肢にさらし、彼に考えさせています。
作者は極めて現実的な暮らしをJinに迫っています。
◆
現実的な暮らしを、
氷山曳航計画と密航という、一見、非現実的な世界に重ねて描き、
冒険という大きな枠組みで楽しませてくれます。
スパイス代わりに、恋愛やスピリチュアルな世界も。
なんて、くどくどと書いたものの、
何歳になっても、青年の冒険の匂いのする小説は、読んでいて心躍ります。
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*** 読書満腹メーター ***
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読みごたえレベル E■■■■□F
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