中田永一は、乙一の別名です。
作風が違うからか、書く時の心のありようが別人格だからなのか、
詳しい事情は知りませんが、名前を使い分けています。
この本を手にとったのも、
ありきたりの青春モノを超えるナニカを期待してのことです。
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くちびるに歌を/中田 永一 (小学館) [2011年]
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長崎の五島列島にある中学校の合唱部は、
仲村ナズナ、辻エリ、長谷川コトミたち女子ばかり。
NHK主催の合唱コンクールを目指し練習に励んでいました。
顧問の松山先生が身ごもったので、
その友人柏木先生が臨時教員として赴任し、顧問となります。
それを機に合唱部に変化が訪れます。
◆
彼女たちに、桑原サトル、向井ケイスケたち男子生徒を加えた、
素朴でのどかな学校生活が描かれています。
物語の8割ほどまで、平凡な展開でした。
大きな筋立ては、最後までありがちな話といえるかもしれません。
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でも中田永一が書いた小説です。
そのまま終える訳がありません。
248ページに至り鳥肌がたちました。
存在感の薄い桑原サトルが15年後の自分に書いた手紙です。
ごくあたり前の言葉が並んでいるのに、
思いがけない視点から淡々と書かれた手紙に、心が反応しました。
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そのページから30ページほどの間に、
サトルの手紙以外にも、何度か鳥肌がたちました。
平凡に思えたそれまでのシーンが、
ドンデン返しでもなければ、サプライズでもない
終盤のちょっとした場面を引き立たせます。
ごくふつうの言葉が並ぶほんの数行が、
瞬時に読み手の心を震わせます。
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作品の波長と私の心のヒダの波長がぴたりと合って共鳴した1冊でした。
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*** 読書満腹メーター ***
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