数行が一瞬で心を震わせる~ 「口びるに歌を」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。

中田永一は、乙一の別名です。
作風が違うからか、書く時の心のありようが別人格だからなのか、
詳しい事情は知りませんが、名前を使い分けています。

この本を手にとったのも、
ありきたりの青春モノを超えるナニカを期待してのことです。

    

くちびるに歌を/中田 永一 (小学館) [2011年]
¥1,575 Amazon.co.jp

長崎の五島列島にある中学校の合唱部は、
仲村ナズナ、辻エリ、長谷川コトミたち女子ばかり。
NHK主催の合唱コンクールを目指し練習に励んでいました。

顧問の松山先生が身ごもったので、
その友人柏木先生が臨時教員として赴任し、顧問となります。

それを機に合唱部に変化が訪れます。

    

彼女たちに、桑原サトル、向井ケイスケたち男子生徒を加えた、
素朴でのどかな学校生活が描かれています。

物語の8割ほどまで、平凡な展開でした。
大きな筋立ては、最後までありがちな話といえるかもしれません。

    

でも中田永一が書いた小説です。
そのまま終える訳がありません。

248ページに至り鳥肌がたちました。
存在感の薄い桑原サトルが15年後の自分に書いた手紙です。

ごくあたり前の言葉が並んでいるのに、
思いがけない視点から淡々と書かれた手紙に、心が反応しました。

    

そのページから30ページほどの間に、
サトルの手紙以外にも、何度か鳥肌がたちました。

平凡に思えたそれまでのシーンが、
ドンデン返しでもなければ、サプライズでもない
終盤のちょっとした場面を引き立たせます。

ごくふつうの言葉が並ぶほんの数行が、
瞬時に読み手の心を震わせます。

    

作品の波長と私の心のヒダの波長がぴたりと合って共鳴した1冊でした。


[end]

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