その人の作品が大好物というほどではないのに、
だから、いつも気にとめている作家というわけでもないのに、
書店でその作品を目にすると、つい手にとってしまう作家がいます。
こうした作家のにちりばめられた感性のかけらが、
私の琴線の1本をぽろんと弾くのです。
この作者もそんなひとりです。
◆
風の牧場/有吉 玉青 (講談社文庫)
¥580 Amazon.co.jp
<美名子>がもの心ついた時には、すでに両親は離婚していました。
母は父のことを話すことがなく、母とのふたりがあたりまえの暮らし。
美名子は、とりたてて父親に逢いたいとも思っていませんでした。
彼女が成長するにつれ、父が著名な人であることを知り、
彼と逢うことができないことがわかりました。
◆
逢えないと知ると逢いたくなるのが心の成りゆきです。
美名子も結婚して夫の実家を出入りし、父親のいる家庭に接します。
義父母とも姉ともうまくいっているものの、
自分がどこか本当の家族の一員とは、どこかちがう気が消えません。
美名子の父を想い、母を想う気持ちに変化が・・・・。
◆
この作家の作品を読むたび、よそ者感を扱い方が私の気持ちとFitします。
勤め先を変えた時、よその国で暮らした時、感じたアレです。
大切に扱われ、大きな問題もないまま、お客さま扱いを受けている
よそ者感が登場人物の体の中に潜むさまがほどよく、リアルです。
結婚後に絆をつくった義父母との縮めきれない距離感、
逢ったことのない実父の、会って間もない親戚との近い距離感。
逢おうと考えていなかった父と逢えなくなったことをきっかけにした、
美名子自身が意識する想いと、実感する距離感との微妙なねじれが、
この本の楽しみどころでした。
◆
身の周りからうける印象やそこからうまれる感情が、
すとんと腑におさまる心地よさもあるでしょう。
それとは別に、ちょっとおさまりの悪い気分を、
この違和感はなんなんだろうと考えはじめるのも、暮らしのめりはり。
それを何年も、何十年もかけて、
違和感の正体に近付くのであれば、人生のめりはり。
説教臭い〆は蛇足です。
[end]
*** 読書満腹メーター ***
お気にいりレベル E■■■□□F
読みごたえレベル E■■■□□F
*****************************
作家別本の紹介の目次はこちら
*****************************
<----左側の
①「ライブラリーを見る」をクリックし、
②ライブラリの各本の"LINK"をクリックすると
その本を紹介した記事にとびます。