私は時おり天使の姿を見かけることがあります。
小さなあるバーのカウンターで。
夜も更けて閉店近い時間になると、
そのバーにあるウィスキーの樽のまわりを
2、3人の天使が小さな羽を少しおちつきなさげに動かして飛んでいます。
マスターがバーの扉に鍵をかけた後、
樽のウィスキーをこっそりのむためです。(*1)
◆
天使の骨/中山 可穂 (集英社文庫)
¥500 Amazon.co.jp
ちょっとした人気のある劇団をもち、芝居をしていたミチルは、
訳あって芝居の世界から足を洗い、自堕落ともいえる暮らしぶり。
ある夜、ミチルは下北沢の踏み切りで、初めて天使の姿を目にします。
羽根もくたびれた、やや落ちぶれた感じのする天使でした。
天使たちが顔の筋肉を引っ張っていてうまく笑わせてくれないんだ
ミチルが目にするそんな天使の数は、だんだんと増えてきます。
◆
西へ行くな。水に近づくな。死ぬよ。
占いばばあのこんな言葉と、ミチルの口からでた嘘ををきっかけに、
彼女は旅にでます。
西へ、水辺を求めて。1枚の写真をたずさえて。
イスタンブール、ギリシャ、ローマ・・・・・、やがてパリへ。
そこには天使たちもついてきます。
◆
絶望といっていい心持ちの若い女性ミチルが、
占いばばあの不吉な言葉に逆らう旅にでようと決心します。
このままじゃいけない、という気持ちが燻ぶっていた証しです。
と言っても、
何かを新たに始めるあてもなく、
あらためて自分探しをしようというほどの気概もないまま。
◆
見知らぬ土地への旅は、自分のことを知る人もいないので、
まっさらな人間関係での出逢いしかありません。
いまの自分だけから始まる人とのつながりです。
ヨーロッパの入り口トルコのイスタンブールで、
ギリギリの状態だったミチルが倒れたのは幸運でした。
旅での出逢いとはいえないほど太い、あらたなつながりの始まりです。
◆
旅にでればなんとかなる、というほど神様は甘くありません。
それでも、
このままじゃいけない、という気持ちから、
なんとかしなくちゃ、という気持ちへシフトして、
いつもとちがう何かをはじめようか。
そんな気分にしてくれる一冊です。
◆
ミチルの前に姿を現していた天使たちは、
増え続けたのか、姿を消しはじめたのか・・・・・・、お楽しみに。
幸い、私の前に姿をあらわす天使たちは、
私の顔をちょんちょんとつついて、頬を緩ませてくれます。
そろそろ、またあの天使たちに逢いにいかなくちゃ。
[end]
*1 スコットランドのウィスキーの蒸留所では、
熟成中の樽のウィスキーが少しずつ減るのは、
夜、こっそり天使がウィスキーを飲むからと考えていました。
その減った分を"Angel's Share"(天使の分け前)と呼びます。
*** 読書満腹メーター ***
お気にいりレベル E■■■□□F
読みごたえレベル E■■■□□F
*****************************
作家別本の紹介の目次はこちら
*****************************
<----左側の
①「ライブラリーを見る」をクリックし、
②ライブラリの各本の"LINK"をクリックすると
その本を紹介した記事にとびます。