旅のそこはかとない余韻 ~ 「きみのためのバラ」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。

若いころ、友だちと連れだった賑やかな旅とはまた別に、
ときおりひとり旅をしたことがあります。
国内の古都を数日あるきまわったり、1ヶ月半のよその国を巡ったり。
そんなひとり旅で、たくさんの写真をとりました。

長い年月を経てふと思い出す場面は、写真にやきつけられたものとは別の、

昼ごはんを食べていると話しかけてきた老人だったり、
  公園で幼子を遊ばせていた若い母親との会話だったり、
    移動中の飛行機の中で隣り合わせになった婦人だったり、
と意外に地味なシーンです。

    

きみのためのバラ/池澤 夏樹 (新潮文庫)
¥420 Amazon.co.jp

ヘルシンキ、ミュンヘン、沖縄、モレリア(メキシコ)、バリ島・・・・
世界のあちこちを舞台に、人との出逢いと不思議な時間が流れる8つの物語。

旅先で、ふと目にとめた、気にとめた、目、仕草、言葉が、
旅の時間に彩りを添えたり、人生を変えたりする物語たちです。

    

ここで語られる話は、大仕掛けなストーリーはなく、
エピソードであったり、ドラマにできそうな劇的な事件であったり様々でも、
いずれも、ひとり旅での個人的なできごとです。

ミュンヘンの1泊の夜に久しぶりにあった友人の遺産とパリの生活、
ヘルシンキで出逢ったロシア人の妻と離婚後娘と年に1度会う男、
卒業後沖縄に職を求めた若い男とアラフォーの女医の連夜、
メキシコの列車で出逢った少女と老女 etc.

静かな語り口が、
それぞれにあった体温で、その土地の湿度や乾きで、明るさと暗さで、
それらの物語をじんわりと伝えてきます。

    

あとになって、ふとした拍子に心かしみでてくる旅の思い出の魅力は、
目に見えるかたちで写真に残しても伝わりきれない、
ちょっとした出逢いが醸し出す、そこはかとない余韻かもしれません。

上質のおとなの短篇集です。


*** 読書満腹メーター ***
お気にいりレベル  E■■■■□F
読みごたえレベル E■■■□□F


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