「大きくなったら何になりたい?」
子供のころ、こうきかれると困ったものでした。
毎日のことで精いっぱいで、そんな先のことは考えていませんでした。
それなりの年齢になってからは「君の夢は?」という問いが、
「大きくなったら」と同じ気分にさせました。
職について安定的に食べていける暮らしづくりが最優先でした。
はたからみれば、面白味のない子どもであり、青年です。
◆
それでも、わたし自身は、稼ぎの範囲内で
飲みにいったり、ツレとでかけたり、本や音楽に接したり、
それなりに身の丈にあった楽しみをみつけています。
まあ上出来です。
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小銭をかぞえる/西村 賢太 (文春文庫)
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「焼却炉行き赤ん坊」と「小銭をかぞえる」の同一主人公の2編。
いずれも、容姿も学歴も生活力もない"私"が、
一緒に暮らす女性となんとか折り合いをつけようと四苦八苦する物語です。
ダメンズが女性の細い稼ぎによりかかって暮らしています。
◆
互いのご機嫌をとるようす、
些細なことから口喧嘩に火がつき、琴線にふれられてキレるさま。
そのやりとりが、すこし時代がかった語り口で描かれています。
"私"は一緒に暮らす女性ばかりでなく、
恩を受けた周りの人とも、諍いを繰り返します。
"私"と激しく争った後のふたりの女性の、
ぬいぐるみを繕う、払いのときに小銭をかきあつめる場面で、
読み手のわたしには見えているはずのない、
彼女たちの悲しい背中を思いえがきました。
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読み進むうち、主人公の"私"をうらやましく感じました。
"私"は大正時代の不遇の作家藤澤清造の評価を高めようと、
没後弟子を自称しており、彼の全集を出版するのが夢です。
実際に第1巻の原稿を名のある印刷所に持ち込みます。
ほとんど稼ぎのない"私"なのに、藤澤清造が最優先事項です。
日々の暮らしより、女性の気持ちより優先されます。
世間からみれば、身のほどしらずの非常識です。
でも、そんな優先事項を志としている主人公の姿は、
わたしの眼には眩しく映ります。
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「おはん」に登場するただのダメンズとはひと味ちがう、
骨のあるダメンズです。
小骨ですがね。
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