これまで私は引越したことが4回あります。
そのうち勤めるようになってからのものが3回。
その時どきの借りた部屋の壁や天井や床には、
その時代にあったできごとが染みこんでいるような気がします。
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独り暮らしからツレアイを迎えた調度品の少なかった部屋には、
少しずつふたりの生活を積み上げていった初心者マークの香り。
帰国して借りた6畳ふた間の光の少ないアパートには、
長女サクラが産まれ、子育てに翻弄されたバタバタした慌ただしさ。
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6つの部屋に、それぞれの物語がありました。
さようなら、コタツ/中島 京子 (集英社文庫)
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記念の日に、帰ってみると父親が上がり込んでいた部屋。
男性とのつき合いに不器用な女性が誕生日に彼を待つ部屋。
妻に先立たれた大叔父が寝込む路地を入った家の縁側・・・・。
その部屋の時代のなかのほんの一日や一時期が描かれています。
その部屋の住人と彼らをとりまく人たちへの思いが、
部屋の空気を時には維持し、ときには撹拌します。
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平熱の体温や、微熱の体温が、伝わってきます。
男の、女の、大人の、子供の、外国人の、暮らしの体温です。
どこか哀しげで暖かい素肌感覚に惹かれていきました。
最も好みだったのは"ダイエットクイーン"。
貧しさを必要以上に明るくすることも、元気にすることもなく、
多感な時期の少女の部屋暮らしを通して哀しげです。
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いつもと違う登場人物を迎えると、
いつもと違う部屋の表情を見ることができます。
その準備の時から部屋の空気がどこか気取り始めます。
ふだんの素顔よりよそよそしくなると同時に、
この部屋もこんな顔になるのかあ、と見直すこともあります。
- えらく片付いちゃったなあ。
週末、ツレが朝からえらく気合を入れて居間を片づけていました。
次女モモのカレがやってくる日です。
素顔を最初から見せておく方が気楽だと思うけど。
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