日本の商人道の開祖とも言われ、あの経営の神様といわれた“松下幸之助”さんが、学び尊敬した“石田梅岩”さんのお話です。
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欲心によって為された行いの多くは、短期的に収入を増加させることはあっても、長期的には期待していた逆の状況を招くのです。
梅岩という人は、行為自体より、心の状態を改めることを重視しています。
そのような彼が、最も理想的と考える心の状態が、「正直」と呼ばれるものです。
――― 自分に他人の誠実と不誠実がわかるように、他人からもまた、自分の誠実と不誠実はわかることを知らない者が多い。
『大学』に書かれているように「他人は自分の心の奥底まで見抜く」のである。
この真理を知れば、言葉を飾らずありのままにいうので、正直者と思われ、また、何事でも任され頼られて、苦労することもなく人一倍、物を売ることができるのだ。
正直だと思われ、打ち解けることは、自分にも相手にも善であると知らなくてはならない。――― 『都鄙問答』
自分から他人の誠実さや不誠実さがよくわかるのと同じく、他人からは自分の誠実さや不誠実さがよくみえているものです。
だから、自分が正直であれば、必ず周りの人々はそれを理解してくれるはずなのです。
それに対して、表面をどんなに繕っても、心が正直でなければ、それもやはり周りに伝わることだろう、そう梅岩はいうのです。
そして、結果として、正直である者は、商売も繁盛するだろうと述べています。
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なぜ名経営者は石田梅岩に学ぶのか?
森田 健司 著
ディスカヴァー
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日頃、梅岩さんは、
「誠実な商売をしなさい。
たとえ今日、お客さんが一人しか店へやって来なかったとしても、誠心誠意尽くしなさい」
と教えていました。
梅岩さんの私塾は、教えを受けるためにやってくる沢山の人たちで賑わっていたのですが、ある日、どういうわけか受講者が一人しか現れませんでした。
その人は申し訳なく思って、「今日は帰ります」と席を立とうとしました。
すると梅岩さんは、
「私はいつも一人で勉強をし、一人で書物を読んでいます。
だから講義の相手があなた一人であってもまるでかまいません」
と言い、いつもと変わりなく講義を始めたと言います。
まさに「誠実さ」の実践をする梅岩さんの商人道です。
正直に誠実に商売をやっていたら、その姿勢にお客さんは胸を打たれ、応援したくなるのです。
だから、街にあるあの団子屋さんも、あの焼き鳥屋さんも、長く続くのです。
仮にお客さんが欲しがったとしても、それが相手のためにならないと思うのであれば売らない。
仮にその時の売上げは伸びたとしても、気が進まないモノをお勧めしていたのでは、言葉や表情やどこかしらから伝わってしまうものです。
稲盛和夫さんの言葉が、正直に誠実に生きている人を勇気づけ、支えてくれます。
「因果応報の法則は、結果が出るまでには時間がかかることがあります。
原因に対して結果がすぐ出ることもあるにはありますが、多くの場合にはなかなか結果が出てこないのです。
しかし、20年、30年といった長いスパンで見ると、必ず因果応報の法則通りの結果になっています。
悪いことをした人が繁栄していることはまずありません。
よいことをしてきた人が不遇のままでいるということもありません。
人生を長いスパンで見ると、大体つじつまが合っています」
約束の時間に遅れないとか、言ったことは守るとか、嘘をつかなとか、そういった日々の些細なことから、誠実さや正直さというのは磨かれて光を放ちます。
【誠実さや正直さが「信用」や「信頼」を生む。
「信用」は“お金”を、
「信頼」は“人”を集める】 by け